$あれも聴きたいこれも聴きたい-Terry Riley
 ロック界に多大な影響を与えたテリー・ライリーの1969年作品「ア・レインボウ・イン・カーヴド・エアー」です。ライリーをアメリカの現代音楽家だと知らずにこの作品を鑑賞していた人も多いのではないでしょうか。それほどロック界隈で有名な作品です。

 その影響たるや甚大で、まずはバンド名をカーヴド・エアーにしてしまった英国のプログレ・バンドが浮かびます。有名な曲ではザ・フーの「フーズ・ネクスト」に入っている「ババ・オライリー」がライリーの名前を曲名に入れ込んでいることで知られています。

 さらにその影響を受けたアーティストの系譜には、英国のプログレ大将ソフト・マシーンやあのブライアン・イーノなどが連なります。ドイツのプログレ勢となると時代的にどちらが先行か分かりかねるところもありますが、影響を与え合っているのではないでしょうか。

 ライリーは一般にミニマル音楽の巨匠として知られています。ライリーの名前を一躍有名にした「インC」などがその典型で、まさにミニマルなフレーズを繰り返す構造で知られます。スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスを加えてミニマル三羽烏です。

 しかし、ライリー自身はインド音楽の巨匠プラン・ナースに師事してインドの古典音楽を学んでおり、自身でも大学でインド古典音楽を教えていたという側面もあります。この作品はインド古典の特徴の一つでもある即興を大胆に取り入れた作品になっています。

 制作手法もまたユニークです。本作品で演奏しているのはライリーただ一人です。一人で多重録音して制作したアルバムです。それも演奏をテープに録り、それを背景に流しながら別の楽器を演奏して録音していくという原始的な方法がとられています。

 その際、既存のテープをループさせたり、ディレイを使って手を加えたりもしています。そうしながら即興で音を重ねていくわけです。今ならばコンピューターを使えば簡単にできてしまうことですが、当時は人力でこれをやっていたのですから大変なことです。

 ライリーは、全二曲のうち、表題曲では電子オルガン、電子ハープシコード、ロックシコード、打楽器ドゥンベク、タンバリンを使い、「ポピー・ノーグッド・アンド・ザ・ファントム・バンド」では電子オルガンとソプラノサックスのみを使っています。

 前者はチープな電子オルガンの響きがふわふわとした浮遊感を感じさせるインド的な香りの曲で、後者はドローンを多用して音の壁を作ったちょっと暗めの楽曲です。この当時、ライリーは夜通しライヴを行っていたらしく、後者はその雰囲気をよく捉えているといわれます。

 ライヴ!そうなんです。ライリーはこの一人多重録音作品をライヴでも演奏していました。見たことがないので何ともいえませんが、恐らくはテープを流しながら即興演奏を行う形でしょう。ここも含めてクラブ・ミュージックのご先祖であるといってよさそうです。

 現代音楽の範疇に入れられると足が遠のく人もいるでしょうが、この作品などは普通にロックないしはクラブ・ミュージックとして聴いても全く違和感はありません。忘我の境地に入ることができるので瞑想のお供にも最適です。ちょっとジャケットがなんですが。

A Rainbow In Curved Air / Terry Riley (1969 Columbia)

*2012年7月31日の記事を書き直しました。



Songs:
01. A Rainbow In Curved Air
02. Poppy Nogood And The Phantom Band

Personnel:
Terry Riley : organ, harpsichord, Rocksichord, goblet drum, tambourine, soprano sax