$あれも聴きたいこれも聴きたい-Grand Funk Railroad
 前作からわずか半年で発表されたアルバムです。凄いハイペースですが、見事に期待に応え、ダブル・プラチナムを獲得するという大ヒットになりました。ドン・ブリューワーによれば、当時のアルバムは数日単位で制作するんだから、取り立てて多産でもないんだそうです。

 キャピトル・レコードは相当気合が入れており、ニューヨークのタイムズ・スクエアには横100メートル、縦30メートルに及ぶ巨大な看板を2か月間掲げました。総費用10万ドルは当時のレートで3600万円。ちなみに当時の日本の大卒初任給は4万円。アメリカは凄いです。

 そんな大きなプロモーションをやればやるほど評論家の皆様の反感を買うのは道理というもの、このアルバムも酷評されました。後に侮蔑的な意味合いで使われることになる「産業ロック」なんていうありがたくない言われ方をしています。

 しかし、彼らの実力は本物です。ファンはしっかりついていきます。ニューヨークの新聞の読者アンケートではぶっちぎりの1位に選ばれましたし、レコード売り上げもライブのチケット・セールスも絶好調でした。評論家の悪評など屁でもない。

 アルバムはデビューから1年も経っていないのに、随分と落ち着いて、大物感が漂うようになりました。相変わらずぐいぐいくる演奏ではありますけれども、各段にまとまりが見られ、彼らなりに洗練してきた印象です。

 バック・カバーにあるプロデューサーのテリー・ナイトの言葉を借りれば、デビュー盤が「これが俺たちが見ていること」で、セカンドが「これが俺たちが感じていること」、このアルバムは「これが俺たちが向かっているところ」だと言うことになります。

 まあ言わんとしていることは分かるような気がします。基本は相変わらずヘビーな無骨ロックではありますが、前作までとは違って、「ミーン・ミストリーター」はオルガン・バラードですし、「ゲット・イット・トゥゲザー」はゴスペルです。それにタイトル曲はカントリー・タッチです。

 どしどし押しまくりながらも、音楽性の幅を大きく広げたということなんでしょう。不必要に広げるとろくなことにはなりませんが、ここでは成功しています。どんな曲でもねじふせる若さが大きな勢いになっていたのだと思います。

 しかし、このアルバムはそれだけではありません。アルバム中でも傑出していた「アイム・ユア・キャプテン(クローサー・トゥ・ホーム)」は当時アメリカ社会に暗くのしかかっていたベトナム戦争を題材にした曲です。若いアメリカ人の彼らにはとりわけ切実な問題です。

 マーク・ファーナーに突然降りてきた言葉で綴られた歌詞は、ベトナムで戦う兵士を家に帰そうというセンチメントを正面から表現し、当時ラジオで頻繁にオンエアされました。この曲のおかげで当局ににらまれた彼らは兵士のためのライブを拒否されました。

 しかし、上院議員の手も借りながら、この決定をひっくり返し、1971年7月にドイツで米兵のためのコンサートを実現させます。とても清々しいことです。彼らの生き方には一本筋が通っているんです。グランド・ファンク万歳と叫びましょう。

Edited on 2018/10/1

Closer To Home / Grand Funk Railroad (1970 Capitol)