$あれも聴きたいこれも聴きたい-Open Reel Ensemble オープンリールのテープレコーダーなんて若い人は見たことないんじゃないですか。私が小学校の頃までですね。テレコ、これ自体懐かしい言葉ですが、そのテレコと言えばオープンリールでした。それがあっという間にカセット・テープに変わり、今やカセットも見なくなりました。

 今から振り返れば不便な機械でしたけれども、iPodなどとは違って、むき出しのメカニズムが何とも言えない魅力でした。音がなる仕組みがよく分かりましたし。便利になるとどんどんブラックボックス化してしまいますからねえ。

 先日、映画フィルムの編集機械を見る機会があったんですが、フィルムはオープンリールですから、オープンリールのテレコに久しぶりに会った気がして、ちょっとゾクゾクしました。アナログ機械の魅力はコンピューターの魅力とは全く別物です。

 そんなオープンリールの録音装置とコンピューターを使って、音楽を作り出すパフォーマンス集団がこのオープンリール・アンサンブルです。美大時代にプロジェクトとして始めたグループが、2009年頃にメンバーが確定し始めて以来、文化庁のメディア芸術祭などで高い評価を得た他、ライブでも評判を呼び、満を持して発表したのがこのファースト・アルバムです。

 パフォーマンスの映像を記録したDVDが同封されています。まずはそちらを見て頂くのがよろしいかと思います。だって、説明を聴いてもよく分からないですし、音を聴いても何をしているのかは分からないですからね。見れば一目瞭然。面白いです。

 ずらりと並んだオープンリールを操作するメンバー4人にベース1人を加えた5人組みで、テープ操作の4人はいろいろ鳴り物を鳴らしたり、パーカッションを叩いたりもします。オープンリールは録音した音を再生するわけですが、それをデジタル制御するかと思えば、テープを手で引っ張る超アナログ手法も絡めて表情豊かな音を紡いでいきます。

 曲もダンサブルで、メンバーは結構踊りながらテープ操作をしています。クラブ系のエレクトロ・サウンドなんですが、オープンリールがアナログ感を出しているので、ちょっと不思議な味わいです。聴いたことがない音なので、DVDを見るまで何をやってるのかよく分かりませんでした。まあ見たからと言ってどうやってあんな音がでるのか分かりませんが、少なくとも何から音が出ているのかは分かります。

 CDジャーナルのインタビュー記事(2012/7)によれば、テープを「キュイーン!って早回しするもんだから、すごい周波数の音が出て、デジタルの範囲を越えちゃうんだよね」ということで、その音も消さずに使っているそうです。「ゴースト・イン・ザ・テープ現象」と呼んでいると笑っています。

 そういうわけで、手法自体が前代未聞ですから、とにかく新鮮です。聴いてみて損はありません。

 この作品には、ゲストとして、YMOの高橋幸宏や、相対性理論のやくしまるえつこ、世界の屋敷豪太などのゲストが参加して演奏しています。さらに面白いのは、テープの特性を生かして、ソニーの井深大、鉄腕アトムの音を作り出した音響デザイナーの元祖大野松雄、極めつけは世界最初の録音となるオーストリア国王のフランツ・ヨーゼフ1世の声を使っていることです。「ヨーゼフ・ボイス」なんて洒落たタイトルを曲につけています。

 いろんな音が出てくるので、耳を澄ませるといくつも発見があって、音響的にはとても楽しい作品です。音楽自体は、たとえば高橋幸宏のゲスト作品など、まるでYMOな感性ですし、全体にリズムの冒険が少ないので、ちょっとレトロなフューチャー路線のクラブ系サウンドと言えるでしょうか。その面では刺激的と言うよりも安心して聴ける感じですね。

Open Reel Ensemble / Open Reel Ensemble (2012)