あれも聴きたいこれも聴きたい-Utopia 2
 私の世代の常識の一つにピラミッド・パワーがあります。東西南北を合わせて正四角錐のピラミッドを置き、その中に肉を入れておいても腐らない、剃刀は切れ味がよくなる。そんな不思議なパワーのことです。ピラミッド型の帽子をかぶると頭がよくなるとまで言われました。

 ユートピアのこのアルバムはエジプトの太陽神をタイトルにしていますし、付録にメンバー四人を各面にあしらった組み立て式ピラミッドがついていました。エジプトの神話をテーマにしたということですから、存分にピラミッドを意識していたわけです。

 ピラミッド・パワーで浮揚を図ったのでしょう。当時、メンバーは、ジャケットが赤い理由を聞かれて、「バンドの赤字を解消しようとあえて使った」と語っていました。結果的に、ピラミッド・パワーは功を奏し、イギリスでは彼らのアルバムで最も売れた作品になりました。

 この作品はユートピアの3作目です。前作まではトッド・ラングレンズ・ユートピアでしたが、今作からユートピアとなりました。ロジャー・パウエルとジョン・ウィルコックスを除くメンバーはトッドに解雇され、新たにカシム・サルトンが加わって、4人組になりました。

 この四人組は1985年まで続く不動のラインナップです。当初のプログレ色は完全に薄れて、ポップな味わいのあるロック・バンドになりました。結局、トッドは、プログレがやりたいのではなくて、バンドがやりたかったんでしょう。

 このバンドの最大の特徴は4人とも曲を書くし、リード・ボーカルもとれるということです。本作品は、その特徴を最大限に生かした作品になっています。典型的なのはラストの18分に及ぶ超大作「シングリング・アンド・ザ・グラス・ギター」です。

 これはおとぎ話になっていまして、ガラスのギターに閉じ込められた妖精シングリングを救い出すために、四人の勇敢な若者が、水、風、火、山それぞれの試練に挑み、4つのカギを手に入れてハッピーエンドになります。

 各メンバーがそれぞれのパートを割り振られ、ボーカルと楽器のソロをとっていきます。楽しそうです。ギター・フリークの友人は、期待が高まり過ぎて、最後のトッドのギター・ソロに不満を述べていましたが、まあソロと言えば速弾きでもないですからね。ップな名曲だと思います。

 他の楽曲はともかくバラエティーに富んでいます。最初は♪ぽぴーっ♪から始まるかんかん照りの似合う音に続くプログレ曲、べたべたな甘々のバラード、ハード・ロック、不思議なポップまで、懐の深さを名刺代わりにあれこれと見せつけた感があります。とにかく楽しそうです。

 そして、最大の問題作「ヒロシマ」です。原爆投下を歌った曲です。中国風東洋メロディーとともに、♪ひろーしまー、なーがさき♪と繰り返されます。忘れるなというメッセージは重いはずですが、なんかちょっと違和感を感じます。アルバム全体のうきうき感とも合わない。

 トッドとその仲間たちのこれでもかと言わんばかりの楽しげな演奏が詰まったよい作品だと思います。高校時代にはよく聴いたものです。アルバムとして通して聴くというよりも、各楽曲をその時の気分に応じて聴く感じでした。そういう作品は大ヒットとまではいかないもんです。

Rewritten on 2018/5/17

RA / Utopia (1977 Bearsville)