$あれも聴きたいこれも聴きたい-Rhabi 今日はインドだから読むのを止めようと思ったユーロ・プログレ・ファンのあなた、ちょっと待ってください。

 このアルバムのプロデュースをしているのは、昨日、ご紹介したマウロ・パガーニなんですよ!!!どや、どや、どや。

 思わず興奮してどや顔になってしまいました。マウロ・パガーニは全9曲のうち、5曲をプロデュースしています。自身もストリングスのアレンジを始め、バイオリンやブズーキ、ギターを弾いたり、パーカッションを叩いたりと大活躍です。ビデオでご紹介する曲では、女優さんがブズーキを抱えていますが、弾いているのはマウロ・パガーニその人です。

 ラビことラビ・シャーギルは2004年にセンセーショナルなデビューを飾りました。その後、ボリウッドの仕事などはしていましたが、これがやっと2枚目、待望の新作として騒がれたものです。瞬く間にインドのヒット・チャートを駆け上がりました。いつもは結構厳しい音楽評論家の皆様もこの作品はべたぼめでした。テレビではニュースにもなりました。

 日本で人気アーティストが新作を出すと普通に見られる光景ですが、インドではなかなかこんなことはないんですよ。映画音楽以外のポピュラー音楽は虐げられているんです。しかもこの作品、歌詞カードがついていて、英語の対訳まで掲載されています。ラビの一言解説もついていますし、演奏者のクレジットもばっちりです。本当になかなかないんですよ、こういうこと。

 この作品を初めて聴いた時には妙な感じがしたものです。ここでの音楽は、一言でいうと、西側のロック的な演奏に乗せて、透明度の高い声でパンジャブ地方のフォーク・ソングが歌われるという感じです。一般には、彼の歌はイスラム神秘主義であるスーフィー歌謡と言われます。しかし、そういう宗教的な雰囲気が濃厚なわけではありませんから、フォークと言った方がしっくりきます。そもそもイスラムじゃなくてシーク教の人でしょうし。

 ただ、西側の演奏がちょっと妙なんですね。普通のロックじゃない。あれれ、と思ってみてみるとマウロ・パガーニのプロデュースだったというわけでびっくりしました。イタリアの音なんですね。楽曲の多くはミラノで録音され、イタリアのミュージシャンがバックを務めていて、地中海の民族楽器ブズーキまで顔を出す。

 どういう経緯でマウロ・パガーニがプロデュースすることになったのか、全く分かりません。インド人には彼の名前は全く浸透していなかったので、ただの外人扱いでしたし。考えてみれば、インドとイタリアはともに豊かな音楽世界を有しているにも関わらず、なかなかグローバルになりきれないところがよく似ています。マウロ・パガーニ自身は、ラビに向かって「自分の一部はアラブだよ」なんて言ってますから、イタリアとインドというより、アラブとインドの親和性が二人を引き寄せたんでしょうか。

 インド人のレビューを読んでいますと、東と西の見事な融合、真にインターナショナルな音楽だということで高い評価が与えられています。いかにもな紋切り型の表現ですね。しかし、その視点はいかがなものでしょうか。ここでの演奏は地中海っぽい。民族的な匂いがします。いわゆる標準的なロックの世界からは少しずれています。私などにはエキゾチックの二乗に感じられます。西側のミュージシャンが演奏しているから、即インターナショナルというのは、インド音楽評論界での西側音楽の消化不良を物語っています。

 それで、この作品はどうかと申しますと、なかなかに素晴らしい。歌詞も、グジャラートの暴動を取り上げたり、ターバンに髭姿の彼がヨーロッパで味わった疎外感をもとに連帯を説いたり、なかなか深い意味を持つものも多いですし、エキゾチックの二乗の音楽も心に染み渡ってきます。味わい深い歌唱と、随所になじみのイタリアン・ロックが顔を出す演奏。とてもバランスがいいし、聴き所の多い作品だとは言えます。

 ただ、今のところこれが彼の最新アルバム。順調な活動とは程遠いところが残念です。

Avengi Ja Nahin / Rabbi Shergill (2008)