$あれも聴きたいこれも聴きたい-Ashkenazy 甘~い!スピードワゴンの昔のギャグ風に発音して頂きたい。甘~い。甘い甘い旋律が飛び出す素敵な曲です。

 ロックにもジャズにも甘いロマンチックな曲がありますが、クラシックにもあるのですね。しみじみとそう思いました。初めて、「ロマン派」のロマン派たる所以に合点が行きました。ジャズで言えばクロス・オーバーですか、ニュー・エイジっていうのもありました。

 ロックで言えば、何でしょう。AORとは違います。そういう大人のやさぐれた感じではなくて、王子様風にきらきらと輝いているイメージです。シンデレラや白雪姫に合う音楽ではないかと思います。

 ラフマニノフはロシアの没落貴族の出身だと言う事です。ロシアの貴族というところが何とも言えない味わいを醸し出します。音楽活動が認められて裕福になってからは、様々な楽団の音楽活動に惜しみない援助を与えたそうですから、貴族の精神が終生失われなかったということでしょう。

 作曲家としてのラフマニノフは交響曲第一番の不評で挫折を味わい、一旦創作意欲をなくしますが、ピアノ協奏曲第二番で華麗に復活、このピアノ協奏曲第三番は創作活動に脂がのった時期に作曲されました。具体的には、アメリカへの演奏旅行に合わせて作曲され、1909年11月にニューヨークで初演、翌年1月にはラフマニノフ自身のピアノにマーラーの指揮という、ミーハーな私を小躍りさせる組み合わせで演奏されました。

 抒情たっぷりの、華麗なメロディー・ラインを持つこの曲ですが、ピアノの難易度はものすごく高いんだそうですね。ラフマニノフ自身が超絶技巧ピアニストだったために、そういうことになってしまったんでしょう。彼は2メートルの大男で、柔軟な関節をもつ巨大な手を持っていたそうで、それを基準に作曲された日には大変ですね。

 ここでピアノを弾いているのは、まだ23歳と若き日のアシュケナージ。アル・パチーノに似ていますね。身長も似ていて、彼は168センチくらい。大男ラフマニノフに比べれば随分小柄です。手も小さいでしょうが、彼はこの難曲を得意として、都合4回も録音しています。意地もあったんでしょうか。

 ジャケットはまるでゴッドファーザーのようですが、繰り出されるピアノ演奏は本当に美しい。デッカの技術の粋を集めた録音で再現されるピアノの音は、硬質でころころとしていて、おとぎ話のようです。旋律は文句なく美しく、抒情的過ぎると批判する人がいるのも分かります。

 ラフマニノフの場合、ピアノ協奏曲第二番の方が有名で、Xジャパンのヨシキやフレディ・マーキュリーにもカバーされています。この第三番はそこまで有名ではないものの、ファンも多い名曲です。どちらも演奏者への技術的な要請が大きくて、特に第三番は長らく演奏する人がおらず、ポピュラーになったのは、伝説となっている58年のチャイコフスキー国際コンクールでのクライバーンの演奏からだということだそうです。そう言われれば、子どもの頃はあまりラフマニノフの名前を聴いたことがありませんでした。まあ、大してクラシックの作曲家を知っていたわけではありませんけどね。

 しかし、本当に甘く美しい曲です。全体は40分強で、三つの楽章からなっていますが、どの楽章も美しいピアノが堪能できます。本当に甘く切ない。

 この演奏を聴いていると、ロマン派の音楽が現代のポピュラー音楽の直接の先祖だと言われる意味がよく分かります。普通に地続きです。

Rachmaninov : 3rd Piano Concerto / Vladimir Ashkenazy, Fistoulari, London Symphony (1963)

こちらは85年録音。