$あれも聴きたいこれも聴きたい-Terje Rypdal ジャケットがとても素敵です。ドイツのジャズ・レーベルECMのジャケットはどれもこれも綺麗です。それに音楽とぴったりマッチしています。昔はジャケ買いってありましたよね。ダウンロード時代にはどんなことになるのか楽しみです。

 このアルバムは、ECMを代表するノルウェーのギタリスト、テリエ・リピダルと、かの有名なフュージョン・バンド、ウェザー・リポートの結成メンバーである超絶技巧のベーシスト、チェコ出身のミロスラフ・ヴィトウス、それにマイルス・デイヴィスを始め、ジャズ・ジャイアンツと共演を重ね、自らもジャズ・ジャイアンツに名を連ねる現代最高のドラマーの一人、ジャック・デジョネットによるトリオ・アルバムです。それぞれが長く一線で活躍していますから、どうしても形容句が長くなりますね。

 発表当時にはもちろんそんな言葉はありませんでしたから、ジャズに分類されていますが、オーガニック系アンビエント・テクノに分類されていてもおかしくない作品です。それに、ヴィトウスとデジョネットの作りだすリズムはドラムンベースを思い起こさせます。もちろん全くの人力ですけどね。

 テリエ・リピダルは二十歳くらいまではロック・バンドでプレイしていたそうですし、後にはクラシック的な作品も発表します。音楽の幅が広いんでしょうね、冒険も厭わない。ここではギターを弾きまくるのではなく、サステインを多用したロング・トーンで攻めてきます。残響も込みで一音一音をキャンバスに塗っていくようなそんな調子です。ジャケットにある曇った大空そのもの。ギター・シンセサイザーも活躍します。

 そんなギターに超絶リズムが絡んでいきます。リズム部隊も音数が少ないわけではないのですが、音自体が随分控えめな気がします。特にデジョネットのシンバル・ワークとドラミングは、一生懸命叩きまくっているわけでは全くないのに、もの凄い緊張感を連れてきます。小さな音なのに、こんなにも強靭でしなやかな音がなっているというのは奇跡のようです。

 そんな中では一番カラフルなのがヴィトウスのベースですね。はっきりした音色が声高に主張しています。ただ、あくまで相対的にそうだという話ですけれども。彼の弾くダブル・ベースの音は自由自在です。ボウイングも随分使っていますね。それに彼はエレピも弾いていて、これがギターとタメをはっていていい感じだったりします。

 全体にプログレッシブ・ロックからの影響を感じさせる音になっていると言われます。確かにジャーマン系に近いような気もします。しかし、どうなんでしょう。到達点は似ているかもしれませんが、全く意識していなかったんじゃないかとも思います。とりわけデジョネットのドラムはやはりジャズそのもので、ロックのドラムとはリズムのセンスが違います。

 北欧の曇り空を思い描きながら、一音一音にこだわりながら丁寧に作った結果、こうなってしまったということなんでしょうね。おそらく。冬の明け方の冷たい空気を、透徹した美意識で描いていき、現実から遊離しそうなところを、デジョネットがきっちりと引き戻している。そんな感じの素晴らしい作品です。

Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette (1978)