$あれも聴きたいこれも聴きたい-吉松隆 子どもの頃、NHKの大河ドラマはほとんど毎週見ていましたが、大人になってからはとんとご無沙汰しておりました。しかし、オンデマンドで宮崎あおいの「篤姫」を見て大そう面白かったので、興味が湧いていたのですが、前作で挫折し、今回の「平清盛」で完全復活を遂げました。視聴率が低迷しているのは残念です。面白いのに。

 もともと私は平清盛のファンです。高校時代、平家物語を読んで、重盛や知盛に甚く感情移入していました。しかし、世評は平氏のことを武士のくせに貴族かぶれになって怪しからんと散々なもので、私としては忸怩たる想いでした。最近、ようやく平氏政権の先見性が評価されるようになってきましたので、この大河ドラマでより肯定的な評価に変わることを期待しております。

 そんな期待も込めて毎週見ているうちに、音楽が気になって仕方なくなりました。劇中で挿入される「タルカス組曲」は無論のこと、吉松隆のオリジナル・スコアもとてもかっこいい。というわけで、買ってしまいました。サウンドトラックです。

 何といってもメイン・テーマが素晴らしいです。3分足らずの間に静から動へ、また静へと目まぐるしく展開します。最初、オーケストラの演奏はどうしても尺が伸びてしまったようですが、「このテーマ曲はロックなんだ。丁寧に一個一個の音符を弾くから長くなるんだ。ロックのように感じればいいんだ。とにかく感じてくれ」という吉松のリクエストにNHK交響楽団が何とか応えた結果、このロック交響曲が完成しました。かっこいいですね。

 テレビ・ドラマのサントラということで、長くても3分台の曲が全部で27曲入っています。しかも、電子楽器は一切使わず、フル・オーケストラ、ピアノ付き音楽アンサンブル、ビッグバンド風金管アンサンブル、雅楽と様々な形で録音されているので、息つく暇もありません。おまけに小さな女の子が梁塵秘抄を唄うんですよ。

 しかし、全体を通して、平氏、源氏、朝廷という三つの勢力のモチーフが様々な形で現れますので統一感があり、吉松隆の「『音楽による絵巻物』として聴いていただければ幸いである」との思惑にはまってしまいます。

 吉松隆は「現代音楽撲滅運動」を提唱し、「世紀末抒情主義」を掲げた作曲家です。このサントラは、そんな彼の面目躍如たるものがあります。左手ピアニスト舘野泉のピアノ曲や「女御」などに見られる抒情性は、決して古臭くなく、世紀が変わった今も新鮮に響きます。

 それに、怪獣の歩みのような源氏のテーマに顕著なごとく、とにかく絵が浮かんでくるんですよね。毎週ドラマを見ているせいもあるのかもしれませんが、もともと具象性の高い音楽なのだと思います。絵巻物たる所以です。

 大河ドラマの音楽は、初代の富田勲に始まり、武満徹、湯浅譲二、林光、芥川也寸志、間宮芳生など、現代日本を代表する錚々たる作家陣が担当していました。そんな作家陣に名を連ねるとあって、吉松隆は二つ返事で承諾したとのことです。

 サントラの最後に彼が17歳の時に作曲した「架空の大河ドラマのテーマ曲」をベースにした曲が収められています。憧れだったんですね。面白いことに、その曲は「あまりに大河ドラマっぽすぎる」という理由で没になったそうです。確かにその通り。面白いですね。

NHK大河ドラマ「平清盛」オリジナル・サウンドトラック / 吉松隆 (2012)