あれも聴きたいこれも聴きたい-上間綾乃 上間綾乃は、琉球國民謡協会の若手ホープです。小学校2年生の頃から唄と三線を習い始め、19歳で同協会の教師免許を取得したという筋金入りの民謡歌手です。

 そんな経歴の方で、おまけに美人と来ているので、とにかく絶賛の嵐です。ひねくれ者の私としては、どれほどのもんかとまゆに唾をつけて臨んだのですが、いや、噂通りに素晴らしい唄ですね。感服いたしました。

 ポップス調の歌もあるのですが、上間さん本人は「私自身は"ポップスを歌っている"っていう意識はなくて、新しいものを受け入れてきたのが沖縄の民謡なので、それを現代でやってもいいんじゃないかと思ってるんです」(©CDジャーナル6月号)と語っています。民謡一筋の潔さです。

 やはり発声が違いますよね。ポップスだとやたらと喉を開いて声を振り絞るところですが、声帯の上にもう一つ声帯があって、そこを震わせて声を出している感じと言えば、変ですかね。どんなに高い声でも決して無理がかかっていない。しなやかで、力強い芯のある声です。

 彼女はまだ27歳くらいと若いので、声も若い。若々しい声の魅力は今の彼女にしか出せないでしょうが、この発声だとおそらく歳をとるに従って、万華鏡のように違った魅力が出てくるのではないでしょうか。37歳の彼女、47歳の彼女、欲を言えば77歳の上間綾乃なんていうのも聴いてみたい。残念ながらそこまでは私が無理ですが。

 本作品は上間綾乃のメジャー・デビュー盤になります。満を持して発表ということで、とても丁寧に作られています。スタッフの愛情が感じられる気持ちの良い構成です。

 いろんな曲が入っています。歌詞も沖縄の言葉ウチナーグチと標準的な日本語の二種類が混在しています。「安里屋ユンタ」や「ハリクヤマク」は沖縄民謡もあれば、カバー曲もありますし、オリジナル曲も沖縄的な曲やポップス調の曲が混在しています。

 カバー曲は「アメイジング・グレイス」と「悲しくてやりきれない」の2曲がウチナーグチ・バージョンで収められています。「悲しくてやりきれない」はフォーククルセダーズの曲で、作詞はサトウハチローさん。彼は歌詞の改変を認めない人ですが、上間綾乃の真摯な願いが遺族に通じて、こうしてウチナーグチ・バージョンが実現したんだそうです。

 驚くべきことに、♪悲しくて♪にぴったりあてはまる言葉がウチナーグチにはないということです。この事実だけで、いろんな事を語れそうですね。ちなみに上間綾乃は♪肝ぐりさ♪と訳しています。と言われても分からないですか。

 アルバムは聴きどころが多いです。彼女自身の思い入れが強い「声なき命」の力強さ、三線を堪能できる沖縄民謡、尺八や笙との共演となる「みちあかり」、西洋クラシックの「イツクシミ」、そして最後の曲「夢しじく」はブラジル、ショーロ・クラブとの共演です。純ポップス調の曲「遠音」はちょっとどうかと思わないでもないですが。

 とにかく、一曲一曲、実に丁寧に大事に作られています。そして、上間綾乃の唄はそんな異種格闘技を楽しんでいるようで、見事です。アメリカのディーヴァに対抗できるのは彼女をおいて他にないでしょう。ライブを見に行きたいと、切に思います。

唄者 / 上間綾乃 (2012)

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