$あれも聴きたいこれも聴きたい-Michael Rother 4 ミュージシャンにとって、自分のスタジオを持つというのは大きな意味を持っているのでしょう。クラシックやジャズ、ロックでもバンドで演奏するのが本望というような人にとってはそれほどでもないのでしょうが、おたくミュージシャンにとっては理想なんでしょうね。

 現在のようにパソコンの性能がとてつもないことになっていれば、それこそ普通の人がベッドルームでプロの音を作ることが可能ですが、昔はそんな環境を手に入れるのは大変なことでした。そもそもシンセサイザーですら何百万もしましたからね。

 ミヒャエル・ローターは、もともと宅録の素質のある人でしたし、ノイ!時代にはお金がなくてスタジオを使える時間が限られていて大変苦労した人ですから、自分の自由に使えるスタジオを手に入れたいと強く思っていたことでしょう。

 そんなところへ、これまでのソロ3作が大いに売れたことから、スタジオを手に入れるチャンスが巡ってきました。そして、ついに80年頃に自身のスタジオを建設します。スタジオの名前は「燃える心」スタジオ、ソロ・デビュー作の名前を付けています。嬉しかったんでしょうね。

 このアルバムは、そのスタジオで録音された記念すべき作品です。これまでの彼の作品ではドイツの名プロデューサーであるコニー・プランクが共同プロデューサーとしてクレジットされていましたが、この作品は完全にセルフ・プロデュースとなりました。まあ宅録ですからね。他の人がプロデュースするというのも考えにくいです。

 内容はこれまでのソロ三作と何ら変わるところがありません。ドラムにカンのメトロノーム・ドラマー、ヤキ・リーベツァイトを迎えているところも同じ。彼の心を蕩かす単調なドラムはますます進化し、ここでは完成形を見せています。神の領域に近い。

 しかし、ジャケットが前三作とかなり感じが違うように、サウンドの質感が驚くほど違います。よりクリアな音になり、一昔前のテクノ的な音になりました。エレクトロニクスを使ったサウンドは、ファミコンのような感じの音です。プレイ・ステーションの音ではない。

 繰り返しますが、曲の作りはこれまでと変わりません。しかし、コニー・プランクの音処理がなくなっただけ、より直截になりました。私は、残念ながら、あっけらかんとした中に陰影のある前の音の方が好きですね。

 この後、スタジオを楽器として扱う彼は、スタジオ・ワークに磨きをかけ、コンスタントに作品を発表していきます。そうして彼は今でも現役で、多くの若いミュージシャンからも声がかかる重鎮として確固たる地位を築いています。

 若干、不満はあるものの、相変わらず幸せな音に浸らせてくれるなかなか素敵な作品であることは間違いありません。ユーチューブでは変なビデオを見つけましたのでご紹介しておきます。音はこのアルバムからで間違いありません。合うような合わないような。まあ面白いです。

Fernwärme / Michael Rother (1982)