$あれも聴きたいこれも聴きたい-Agricultures 「東京アンダーグラウンドミュージックシーンにて異端の重鎮として君臨するハード昭和バンド」アグリカルチャーズです。自主制作盤ですからこの煽りは本人の自己紹介ということですね。

 アグリカルチャーズは、アラモード・マガジンCDに収録されていた「カキフライ星人の侵略」で私の脳内に今も健在です。あれは本当に素晴らしい曲でした。そんな彼らのアルバムを見つけたので、迷わず買ってきました。

 帯の煽りを続けますと、「壮絶なる悲壮感と、緊迫のコメディ」、「昭和レトロ風味満載のロック/ヒップホップ/クラブ系サウンド」、「哀愁溢れる芸術的コメディ作品を今、あなたに」となかなか丁寧です。ほとんど説明されつくしています。さすが「恩師に必ず年賀状」の人たちです。

 彼らは「東京新宿を中心に活動を続けている広島産のコンセプチュアルバンド」です。歌詞に新宿がやたらと出てきますし、歌は「広島弁」っぽいです。コンセプトとなっているのは「ハード昭和」です。昭和歌謡や演歌とロックやヒップホップと融合させたサウンドに加えて、「西部警察」ややくざ映画のビジュアルそのまんまです。

 何者なんでしょう。CDのブックレットにあるメンバー紹介では、作詞作曲ベースとボーカルのメランコリック石塚48歳(元刑事)を始め、若くて38歳、その他は50歳前後の年齢となっています。私と同年代です。

 しかし、これは本当でしょうか。写真を見るとそうかなとも思いますが、HPのメンバー紹介だと年齢も違いますし、何よりもMCの平間八段は20年前に死んでいると書いてありますからね。年齢疑惑を掻き立てるのは、コンセプト化した「昭和」があまりに「昭和」過ぎるからなんですね。昭和にもなかったほど昭和。バーチャルな昭和、昭和のパロディーのようです。

 でも、私は、このバンド大好きです。何よりも耳を奪うこぶしを効かせた演歌声のボーカルも聴きごたえがあるんですが、私の大好きポイントはそのサウンドです。どれもこれも一筋縄ではいかない素晴らしさ。とりわけリズム隊がかっこいいことこの上ないです。

 「米を作れ」と歌う「皆様へのごあいさつ」での金属的なパーカッション、「イカのような顔の女は、イカのようなキスがお好き」の演歌ヘビメタ・ギター、「デスコの歌姫」のクラブ・ジャズ的な感覚、「銀座のスナイパー」のちょっとレッド・ツェッペリン風な現代ロック、「ヒップホップとんかつ定食」はタイトル通り、サイプレス・ヒルあたりのクールなヒップホップ。

 「新宿のタクシーのオッサン」は哀愁のパンク風、「妖怪味噌汁ババア」はちょっとエスニック音頭風に聴こえます。「新宿のオカマバー『マッスル』」は何でしょう、70年代の香りが少しします。「義理人情中学TV」も哀愁漂いますが、昭和歌謡風メロディーの21世紀ロックかな。

 そして、一番好きかもしれない「パンチパーマの鬼山田」。これはいい曲です。チョッパーなベースもかっこいいし、全体にレイブ時代の英国の音を思わせます。アコースティック・バージョンもあるという「仁義泣きカツ丼」もばたばたしたドラムがかっこいいし、インストなのに「うなぎ弁当任侠列伝」は、マリリン・マンソンのような曲だし、最後の「昭和スナック物語」はいろいろと詰め込んだクラブ系の音です。半ば以降のラップ部分のサウンドは素晴らしいですね。

 とにかく各楽曲ともにディテールにまで神経が行き届いていて飽きさせません。引き出しが多いんでしょうね。最近はアジアでシングルを発売したそうで、ますますのご活躍は喜ばしい限りです。次はぜひライブを見てみたいと思いました。

 昭和ではあるものの、ロックにしても2000年代の風味ですし、昭和にはなかったヒップホップもミクスチャーされていますし、あんまり昭和にこだわらなくてもいいのになと少し思わないではないですが、「後悔の無い人生を」「友と夢を共有」「あの女に生涯を捧げたい」「死んではいかん。生き抜いてみろ」、そして「仁義」と連打される言の葉は、「昭和」なしには行き場を失うのかもしれませんね。

「デスコの歌姫」 / アグリカルチャーズ (2009)