$あれも聴きたいこれも聴きたい-Peter Gordon
 ピーター・ゴードンはニュー・ヨークの音楽家です。アメリカにラブリー・ミュージックという素敵な名前のレーベルがあって、アメリカの実験音楽、現代音楽をリリースしています。ピーターもそこから「スター・ジョーズ」という脱力系のへんてこなアルバムを出しています。

 このアルバムを気に入った、ミニマル音楽の巨匠フィリップ・グラスのプロデューサーからのオファーを受けて1979年に制作されたのが12インチ・シングル「エクステンディッド・ナイスティーズ」。この時、ピーターはラブ・オブ・ライフ・オーケストラ、LOLOの名前を使いました。

 このシングルには、DNAのアート・リンゼイやトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが参加していたので、ニュー・ウェーブ・ファンの間で話題となり、私もいそいそと買ったのでした。いやあ、本当に素晴らしい音楽で、私はしばらくの間、こればかり聴いておりましたよ。

 2007年にこのシングルの曲をニュー・ヨークのダンス・パンク・バンド、LCDサウンドシステムのジェームズ・マーフィーが発掘してコンピに収録したことから、再評価機運がたかまり、LCDのレーベルからめでたくこのアルバムが発表されることになりました。

 ピーター・ゴードンは現代音楽レーベルからアルバムを出していることからも分かるように、ロック・シーンの人ではありません。アート・シーンの人と言えばいいのでしょうか。区別する必要もないのでしょうが、ニュー・ヨークのヒップな人たちの人脈ということでしょう。

 この作品はピーターの1980年前後の作品を集めた編集盤です。まずは上記シングルから3曲。次いでパフォーマンス・アーティストのジャスティン・コレットのインスタレーションのための曲が2曲。閨房にコレットが住み込むパフォーマンスで、何ともなまめかしい感じです。

 さらに、「オテロ」というオペラのための曲、キース・へリングが美術を担当したダンス・パフォーマンスのための曲と、通常のロックやポップスの楽曲とはありようが少し異なる曲ばかりです。ニューヨークのアート・シーンの豊かさを感じます。

 参加しているミュージシャンも、現代音楽畑の人が多く、ミニマル音楽三人衆の一人スティーブ・ライヒのグループのシンガー、レベッカ・アームストロングや、パーカッショニストのデヴィッド・ヴァン・ティーゲムといったところが注目されます。アーサー・ラッセルもいます。

 LOLOの音楽は、正直、分類に困ります。現代音楽というにはロックだし、ロックと言うにはダンスだし、クラブ系というには時代が古いし、というわけなんですが、結局、クラブ系コンピに収録されたということなので、クラブ系としても十分通ると思います。

 実際、最初のシングル盤に収められた「ビギニング・オブ・ザ・ハートエイク~ドント・ドント」(片仮名にすると間抜けですね)は、クラブ系のサウンドです。デヴィッドの叩き出すビートはディスコというよりもその後に発展するクラブ系のビートです。このビートが素晴らしいんです。

 このビートに煽られるようにして、サックスが響き渡り、ギターがガリガリと刻まれていきます。ピーターはスタジオで生まれたのではないかと言われていたくらい、スタジオ・ワークに優れていたということで、そこが当時はとても斬新でしたし、今でも全く古びていません。

Rewritten on 2020/7/2

Love Of Life Orchestra / Peter Gordon (2010 DFA)