$あれも聴きたいこれも聴きたい-Kertesz 日本では、ベートーベンの「運命」、シューベルトの「未完成」と並んで3大交響曲と呼ばれるドボルザークの「新世界から」です。それほどコンサートでは人気があるんですね。あまり気にしてこなかったので、そんな意識はありませんでしたが、聴いてみたらまあよく知ってました。超有名曲でした。

 特に第2楽章は「家路」として親しまれていますね。夕方になると街に流れてきたのはこの曲だったという人も多いのではないでしょうか。どこかの民謡だと長らく思っていましたが、妻に笑われて悟りました。家に帰ってご飯たべなきゃいけないと思わせる素晴らしいメロディーです。

 しかし、第4楽章も負けてはいません。ネットを見ていますと、「あれでしょ、ちゃーんちゃんちゃんちゃーんちゃちゃん、ちゃーんちゃっちゃちゃちゃーんちゃーん、ってやつでしょ」とかなんとか書いている人がいましたが、うまいですね。まさにそんな感じです。それこそ毎日テレビから流れてきているのではないかと思わせるポピュラーさです。

 クラシック初心者の俗にまみれた私に言われたくはないでしょうが、通俗楽曲とも言われるようです。クラシック界のスノッブな感じが出てますね。ドボルザークの曲にもケルテスの演奏にも聴衆に媚びるところは一切ありませんから、そんな言われ方をするいわれはありません。俗を分かっておらんですな。

 新世界とはアメリカのことです。この交響曲は、チェコを代表する作曲家であったドボルザークが19世紀末にアメリカにわたり、アメリカのナショナル音楽院の院長を務めた3年間に書いた作品の一つです。故郷ボヘミアに向けて書いたということでこんな副題がついています。

 いかにもアメリカに行ったら書きたくなるような作品です。だだっ広い平原を眺めているとむくむくと沸き立ってくる感じがします。結構、そういう指摘がありますが、私もジョン・ウィリアムスの作品を思い出しました。「ジョーズ」や「スター・ウォーズ」などのハリウッド映画音楽です。

 ケルテスはハンガリー生まれの指揮者です。ユダヤ人であったため、家族の多くはホロコーストの犠牲になっています。彼は何とか生き延びましたが、ハンガリー動乱で西側に亡命するという波乱万丈の人生を送った人です。

 そんな背景から、ドボルザークの「新世界から」とシンクロしたのでしょうか、ケルテスはドボルザークを得意としていて、特にウィーン・フィルを指揮したこの録音は、定番中の定番の中の定番とされています。迫力はありますし、メロディーを聴かせる場面では、あくまでしっとりと歌い上げるような演奏になります。

 ちょうど4楽章40分強の演奏で、多彩なメロディーが現れるところとか、強弱の付け方とかとてもプログレッシブ・ロック的です。それに全体を通して、一つの映画を見ているような気になりますから、サントラ的でもあります。

 ボヘミアンの作ったボヘミアンな楽曲をボヘミアンな指揮者が指揮する。この上ない組み合わせで、素晴らしいと思いました。気分はボヘミアンになりますね。

 ところでジャケットには交響曲第5番と書いてあります。このアルバムが録音された時は5番だったものが、後に9番に変更になったんですね。面喰いました。

Dvorak : From The New World Symphony No.9 in E Minor Op.95 / Istvan Kertesz, Vienna Philharmonic Orchestra (1961)