$あれも聴きたいこれも聴きたい-Michael Rother 2 ジャケットには、アーティスト名の下にドイツ語で前作のタイトルが小さく書かれています。推測ですが、前作が意外にヒットして、ローターのことをその作品で初めて知った人が多かったため、新作の宣伝として、前作のタイトルを出すことが有効に思えたんでしょうね。

 当時のドイツのロック界を語る語り口は真剣なものが多いですが、ローターの一連の作品を買った人たちは、ノイ!やカンなどを聴いていた人たちとは随分層が違っているのではないかと思います。プログレッシブ・ロックを聴く心構えではなくて、イージー・リスニング的な受け止め方をした人が多かったんではないでしょうか。

 この作品もドイツでは12万枚を売るヒットとなりました。インストものとしては、大ヒットと言っていいでしょう。前作と同様、カンのヤキ・リーベツァイトをドラムに迎えた他は、ローターさん一人ですべての楽器をこなしています。今回はハワイ・ギターまで入っています。ペダル・スティール・ギターのことでしょう。

 前作と、その方向性は何ら変わらず、ひたすら気持ちの良い音楽が続きます。強いて言えば、前作よりもゴージャスになりました。落ち着いてきたというか、前作の成功で自信を深めたということでしょうか。力強く前を向いて前進しています。脱力しているんですが、力強い。ふにゃふにゃとしなやかなんですね。

 前作を発表した後、ローターさんは、あのデヴィッド・ボウイから新作に参加してくれないかと誘われたそうです。ボウイはノイ!の大ファンだったそうで、前々から共演を望んでいたようですね。しかし、これは実現しませんでした。

 ローターさんによれば、「ロック的なプロジェクトよりも、『ロウ』のB面のようなより実験的で静かな音楽に参加しているところを想像できる」とボウイとマネージャーに言ったそうで、商業的にはロックに戻ってほしいと思っていたマネジメントとレコード会社に嫌われたということのようです。

 しかし、ボウイの新作は「ヒーローズ」でしたから、ローターさんが参加していても全く違和感がなかったと思います。むしろ、あの硬質なインスト曲にへたれギターが絡んでいたら、面白いアルバムに仕上がっただろうと思います。よりコマーシャルだったと思いますし。

 さて、全6曲とそれなりにバラエティに富んだアルバムに、93年に新曲がボーナス・トラックとして加えられました。3曲とも力作なのですが、とてもすわり心地が悪いと思います。オリジナル部分をアナログな気分で最後までぽやぽや聴いて、そこにデジタルな音楽が始まるわけで、ちょっと一枚のアルバムとしてはどうよと思うわけです。

 ヤキのドラムは比較的デジタルと相性がいいと思っていたのですが、やはりデジタル・ビートとは全く違うものです。それにローターのギターやらなんやらも肌触りが全く異なります。プロデュースしていたコニー・プランクの音響操作術が欠けていることも大きいのかもしれませんが、やはりデジタルとアナログの差でしょうね。埋めがたい溝があります。

 この作品では曲のタイトルが素敵です。邦題を並べてみますと、「太陽の自転」、「青い雨」、「濁流」、「星空の彼方」、「月の泉」、「オーケストリオン」。新たに獲得したファンに対するミヒャエルのサービス精神の現れなのかもしれません。

Sterntaler / Michael Rother (1978)