あれも聴きたいこれも聴きたい-Xantone Blacq 70年代の初め頃、登場した新しい黒人音楽はニュー・ソウルと呼ばれていました。スティービー・ワンダーなどが代表選手でしょうか。40年も前の新しい音楽ということになります。同時期のロックもニュー・ロックなんて呼ばれていました。当時はロックやソウルは歴史が浅かったので、その先40年も50年も脈々と生き続けるとは想像しがたかったんでしょう。ですから、安易に「ニュー」とつけたんだと思います。

 一方、90年代のR&B全盛時代にも、昔のソウルの感覚を蘇らせた一群のアーティストが「ネオ・ソウル」と呼ばれます。こちらはリバイバル感覚ですね。昔のソウルを取り戻したアーティストとして、オールド・ファンにもなじみ深い存在です。

 その代表的な歌手の一人にエイミー・ワインハウスがいます。惜しくも亡くなってしまいましたが、そのソウルっぷりは素晴らしかった。そのエイミーのバンドでもキーボードを弾いていたのが、このザントーネ・ブラックです。

 彼はナイジェリア出身ですが、少年時代から、アフロビートよりも、スティービー・ワンダーなどアメリカのソウル・ミュージックに入れ込んでいたそうです。10代でロンドンに移住してから、さらにR&Bに影響を受けて、97年からソロ・アーティストとして活動を始めます。デビュー作は「サーチ・フォー・ザ・サン」という曲で、これが大絶賛を浴びます。

 この作品はそんな彼が満を持して発表したデビュー・アルバムです。DJやクラブ音楽の重鎮たちから絶賛を浴びた音楽ですから、「クラブ系」としようかと思いましたが、ネオ・ソウルの方がぴったりかなと思い直して、「ブラック」に分類することにしました。まあ、この辺は入れ子になってますから、気持ちの問題ですね。

 彼自身は、自分の音楽を「フリーレンジ・サンシャイン・ミュージック」と称しています。いいですね。スティービーやクインシー・ジョーンズの影響はありありと見える一方で、ヒップホップやブロークン・ビーツなどのクラブ系サウンド、途中からブラジル、さらにはインドやアラブも顔を出しますから、まさにフリーレンジ。

 それに、全体にやたらと明るい。太陽燦々ですから、サンシャイン。音楽ですからミュージック。フリーレンジ・サンシャイン・ミュージックとは、彼の音楽を見事に表しています。

 ザントーネ自身はマルチ・プレイヤーですが、基本はキーボードとボーカルです。やっぱり、スティービー・ワンダー系ですね。このアルバムには、彼に加えて、多彩なゲスト・ミュージシャンが参加していますが、何だか和気藹々として楽しげですよ。

 彼らは「ハル・ベリーと全盛期のジャクリーン・ビセットはどちらが凄いか」なんて議論したりしています。それはジャクリーン・ビセットでしょう。彼女の全盛期は比類ない美しさでしたから。私の中ではドミニク・サンダと双璧です。

 このアルバムでは、プリンスの「アイ・フィール・フォー・ユー」やビートルズの「ドライブ・マイ・カー」をカバーしています。意表をついた選曲ですが、どちらも見事に彼のものにしていて斬新です。他の曲もよく練られているんですよね。ぱっと聴くと正統派なソウルなんですが、聴きこめば聴きこむほどいろいろと手が込んでいて、楽しみがつきません。

 久しぶりにソウルな一日になりました。彼は去年ニュー・アルバムを出したようですから、それも聴いてみなくちゃいけませんね。私のような年寄り世代を無理なく新しいサウンドに誘ってくれる頼もしい人です。 

To The Heavens And Beyond / Xantoné Blacq (2006)