あれも聴きたいこれも聴きたい-Michael Rother 漫才のコンビにはボケとツッコミがあるように、音楽でもデュオで活動している人たちには自ずからそういう役割分担が出てくるものです。二人組の場合には、どうしても対称的な性格の二人が組むことになるからでしょう。

 ノイ!も二人組でした。ツッコミといいますか、ノイ!の顔と言えば、アパッチ・ビートを開発したパンク男クラウス・ディンガーです。そしてこちらのミヒャエル・ローターは、ボケ。うーん。ボケではないですね。どう考えても。ツッコミじゃない方。静かな方としか言いようがありません。

 そういえば、最近のお笑いコンビでは、かつての漫才と違って、ボケとツッコミの区別があまりはっきりせず、二人とも対称的だけれどもどちらも面白いというパターンが多いですね。例を挙げようとしてつまりましたが、まあオードリーとか笑い飯とかですか。

 かなり余計なことを書いてしまいました。この作品は、ノイ!の実験的だけれどもパンクでない面を担当していたミヒャエル・ローターの初のソロ・アルバムです。ドイツでは結構なヒットとなり、軽くノイ!時代以上の成功を修めた作品となりました。

 ローターさんは、ノイ!の途中から、ドイツの電子音楽デュオのクラスターとハルモニアというバンドを結成して活躍しました。ハルモニアはおなじみのブライアン・イーノとも協演しています。

 しかし、何者にも妥協せずに自らのアイデアを形にしたいと考えたローターさんは、敢然とソロの道に進みます。その時に選んだパートナーがプロデューサーのコニー・プランク、そして、やはり彼にはビートが必要なんですね、メトロノームのようなドラムを叩くカンのヤキ・リーベツァイトを共演者に選びました。

 コニー・プランクとは本当に相性がよかったようです。ローターさんによれば、音楽を録り終えた後、気分転換のためにスタジオを出ていって、戻ってきてみると、自分が思い描いていた音にほとんど近いミックスがコニーによってなされていたことが何度もあった、ということです。まあ、このアルバムを聴いてみれば二人の相性は抜群だと言うことはすぐに分かることですけれども。

 アルバムは、ヤキのドラムを背景に、ローターのギターやキーボードやら何やらかんやらが浮遊することで出来上がっています。ボーカルはありません。コニー・プランクによって見事に処理された音響は素晴らしいの一言です。

 正確な繰り返しのビートに自由なギターやキーボードですから、ノイ!の作品と構造は変わりません。むしろ、ラ・デュッセルドルフよりもノイ!的と言えます。おそらく、クラウス・ディンガーが乱入してきてドラムを叩いていたら、そのままノイ!になったでしょう。

 しかし、ドラムが代わるだけでこうも違うものかと思います。大きく見れば似たタイプに属するとは思いますが、ヤキのドラムは正確でいて乾いています。機械のようなビートなのにヒューマンなクラウスとはかなり違います。

 ローターさんのプレイは、ソロであることによる開放感にあふれています。基本的にはへたれなプレイなんですが、そこが何ともからりと晴れあがっていて、これはこれで陽性なんですね。

 ここにある心地よさは群を抜いています。素晴らしいですね。ただ、ボーナス・トラックは93年に再発した際に行われたリミックスですが、オリジナルには届きません。

Flammende Herzen / Michael Rother (1977)