あれも聴きたいこれも聴きたい-Mum 私の生まれ育った地方には、比較的大きな灯台がありました。人里離れたところに建っていますから、社会科見学で行ったくらいですが、やはり何かと記憶には残っています。昼間はともかく、夜の灯台などは思い浮かべるだけで背筋が寒くなったものでした。灯台にまつわる怪談もありましたしね。

 この作品は、人里離れた灯台で制作されました。辿り着くまでが大変だったという辺鄙な灯台が舞台です。もちろん使われていないんでしょうね。古い灯台をアーティストの制作に提供しているということで、ムームは結構長い間そこで生活しながら録音を重ねたそうです。ただ、機材が完備していたわけでもないようで、ベルリンに戻っていろんな作業がなされたということです。

 ムームはアイスランドのバンドですから、灯台もアイスランドです。アイスランドの灯台とは聞くだけでもなんだか凄そうですね。北極に近いですから。それに、古い灯台には怪談は付き物。インタビューでは幽霊がゲストで参加していると冗談交じりに言っていますが、同時に、あまり追求したくないとも語っていますから、何かあったのではないかと勘繰りたくなります。

 幽霊の話は、ここでのサウンドを聴けば、一笑に付すことができません。ラップ音が鳴っているとか、幽霊が歌っているといっても違和感のないサウンドですからね。

 ムームはアイスランドのエレクトロニカを代表するバンドだと言われます。アイスランドの有名なアーティストとしてはビョークやシガー・ロスがいますが、ムームも交流が深いようです。三つを並べてみると、確かに共通項があります。音楽自体が似通っているというわけではないのですが、音に対する研ぎ澄まされた感覚が共通しているのではないかと思います。

 このアルバムでのムームは、ギーザとクリスティンという双子のボーカルのうち、ギーザが抜けてしまっていました。クリスティンが一人で歌うのですが、彼女の歌声は、歳をとった子ども、子どもの姿をした老婆のような不思議な声です。それもボーカルっぽくない。節の付いたつぶやきです。

 そんな寒い夏のようなボーカルの背後には、電子音と生活音や生楽器の音が混ざり合って響いてきます。その配合が絶妙です。電子音を使っているからエレクトロニカと呼ばれますが、妙にオーガニックな風情があるためにフォークと重ねた造語、フォークトロニカと呼んで得意げになっている人もいます。

 じっくりと一音一音重ねていく世界は、さながらクレイ・アニメのような感触です。灯台に合宿している間は音楽をつくる以外にすることが何もなかったそうですから、それはもう集中した作業だったんでしょうね。

 しかし、決しておたくっぽくはならず、ナチュラルに美しい。窓の外には夏なんだけれどもとても寒い北の海が広がっていて、重く垂れこめた雲に虹がかかっている。そんなイメージです。ボーカルの好き嫌いは分かれると思いますが、サウンドは素晴らしいです。

 ご紹介するビデオは彼らのプロモらしいですが、この曲では近所の子供たちが歌っているそうです。まあそうジャケットに書いてあるんですが、どこ?

Summer Make Good / Müm (2004)