あれも聴きたいこれも聴きたい-La Dusseldorf 3 邦題はご覧の通り、個人主義となっていますが、原題は没個性ないしは無個性と訳すのが正しいようです。歌詞の意味はアウトサイダーの勧めだそうで、生粋のパンク兄さんクラウス・ディンガーがしゃわしゃわと唄いますから説得力抜群です。ただ、本人は主義主張を持ってアウトサイダーになっているわけではなく、天然でしょうから、わざわざ主張されるとちょっと意外な気もします。

 この作品はジャケットには略語で書いてありますが、ラ・デュッセルドルフの3枚目にして最後のアルバムになってしまいました。大傑作とされる1枚目と2枚目に続く3作目ということで、今一つ影が薄い作品です。

 2枚目あたりで、凄さが万人に伝わってしまったので、やりにくかったのかもしれません。アパッチ・ビートを延々と続けることにも若干迷いがあったのかもしれないなと勝手に推測します。

 しかし、これも力作です。まず、ジャケットがいいです。何とも言えない感じです。ハレーションを起こしたテレビ画面ですかね。裏ジャケットや内袋の画像も同じような雰囲気の写真ですし、やる気がなさそうなレタリングも素晴らしい。中学校の同級生に絵のうまい子がいたのですが、彼がいい加減に書いた虎の絵があまりに素晴らしかったことを思い出しました。

 音楽も素晴らしいです。またまたA面とB面がわりとくっきり分かれています。A面は、メンシェン」という曲がタイトル違いも含めて3パターン収録されていて、それと分かちがたい2曲が収められているので、まるで組曲のようです。

 こちらは印象的なリフを持つアパッチ・ビート全開の楽曲群です。一曲「センチメンタル」は鐘の音とオルガンの響きががんがんなる曲で、裏ジャケに写真の載っているクラウスのお祖母さんの声が収録される面白い曲です。留守電メッセージで、東瀬戸悟さんのライナーによれば、「クラウスかい?婆ちゃんだよ、いないみたいだねえ」というメッセージだそうです。おちゃめです。

 翻ってB面はあまりビートは鳴り響かず、なんだか楽しげに合唱をしてみたり、オルゴールを鳴らしてみたり、水をかく音が出てきたりと、明快な構造を持たないやりたい放題、手当り次第にアイデアを詰め込んだという感じです。ノイ!時代だとミヒャエル・ローターがこういうところをまとめて、コニー・プランクが音処理していたんでしょうが、ここでは素材を天然に並べたソリッドな手触りになっています。

 最後の曲は、前作でもピアノを弾いていたアンドレアス・シェルのピアノが明らかに中心です。復刻CDのライナー・ノーツを読むまで全然知らなかったのですが、彼はアルバム完成前に自ら命を絶ったんだそうです。トリビュートになっていたんですね。特に宣伝されたわけではないところが、より強い思いを感じます。

 ひたすら明るい彼らの音楽でしたが、そんな悲劇が起こっていたとは。そう言われてみれば、前二作に比べると確かにちょっとだけ陰りが感じられないでもないですね。昔は、ちょっと彼ららしくないなと思っていたのですが、それが原因だったのかもしれません。

 ラ・デュッセルドルフは、これが最後のアルバムになりましたが、クラウスとトーマスはそれぞれ音楽活動を続けます。しかし、残念ながらクラウスは2008年、トーマスは2002年に亡くなってしまいました。

 ノイ!からラ・デュッセルドルフと、クラウスが追求してきたビートは全く古びることもなく、時代が下るにつれて人気と評価は上がる一方です。圧倒的な肯定の力で、今後も青空に輝き続けることでしょう。合掌。

Individuellos / La Düsseldorf (1981)