$あれも聴きたいこれも聴きたい-早川義夫 私は団塊の世代から少し下ったすきま世代にあたります。英語でもイン・ビトゥーンと言うそうですから、世界的に隙間なんですね。後の世代は新人類と言われていました。

 日本のフォークは明らかに団塊世代の音楽ですから、私にとってはとても疎ましい存在でした。まるで疎外されている。左翼運動が華やかなりし頃でしたから、当時小学生だった私たちはまったく蚊帳の外です。

 そういう訳ですから、私は日本のフォークには嫌悪感を持っていました。仲間で固められた世界を外から見ているよりは、もともとよその世界の洋楽の方がよほど楽しかったわけです。

 しかし、早川義夫のこのアルバムは違いました。変にゆるい連帯なんぞをかけらも感じさせない孤高の音楽でした。もちろんリアル・タイムで知っているわけではありません。リアル・タイムというならば、もとまろが歌ってヒットして、スタンダードになった「サルビアの花」がそうでしたから、団塊ど真ん中というところです。

 ところが、確か大学時代のことです。URCレーベルの復刻があって、同レーベルの代表作だったこのLPを手に入れました。ベタなタイトルなので、どうしたもんかと思いつつ、妙にジャケットの女の子が気になって買ったのでした。

 URCはもともとアングラ・レコード・クラブの略で、「受験生ブルース」の高石友也が設立した日本最初のインディペンデント・レーベルです。団塊の世代の青春が詰まっていると言っていいでしょう。かなり濃い音楽です。まあ、はっぴいえんどやなぎら健壱もいますが。

 話がそれましたが、このアルバム。基本は音数の少ないピアノやギターの弾き語りで早川義夫が歌うアルバムです。粘っこい声でねっとりとはっきり発音される言葉の数々は、妙にリアルなひりひりする感覚を持っていました。あまりに生々しいので、聴き通すと疲れてしまいますが、また聴きたくなる。そんな吸引力のある音楽でした。

 この人は詩人だとばかり思っていたのですが、このアルバムでは歌詞はほとんど他の人が書いています。早川義夫は作曲と歌を担当しています。ロック的な高揚感は皆無ですが、シンプルなトラックは絶妙な音響操作が施されていて、奥深く響いてきます。タイムレスな楽曲群です。

 ゆっくり歌うので、むしろ言葉がつながらず、全体の意味というよりも、単語や短いフレーズの連れてくるイメージが浮かんでは消えていきます。詩ですね。

 それでもA面はポップです。B面はもう抑揚が全くないかのような早川ワールドです。どちらも甲乙つけがたい。6畳一間の下宿でぶつぶつとよく聴いていたものです。

 この後、彼は24年たってから、新作「この世で一番キレイなもの」を発表します。背筋の凍るような作品でしたが、私はその緊張に耐え切れず、一度しか聴いていません。恐るべし早川義夫。

かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう / 早川義夫 (1969)



もとまろのバージョン。ヒットしました。