あれも聴きたいこれも聴きたい-Clifford Curzon 毎朝、出勤前の1時間が私の音楽鑑賞タイムです。その時の気分で曲を選ぶ時もありますが、だいたいは、ランダムにアルバムを選んで丸々1枚聴くことが多いです。そうしますと、思いがけない発見をすることも多いです。それに、その日の気分が音楽で意外な方向に決まっていくことがあります。

 今日は、モーツァルトのピアノ協奏曲を聴きました。クラシックなので、しゃんとした気分で仕事に向かえるかと思ったのですが、逆ですね。何だかとろけそうで、仕事をやる気がすっかり失せてしまいました。立ち直るのに時間がかかりました。引きこもるというのともちょっと違います。ただ蕩ける。

 さすがはモーツァルト、ロックで言えばビートルズに相当するのでしょうか、ちょっと検索しただけでもこの曲の記事はもとより、この演奏に関する記事もそれこそ山ほど存在しました。クラシック初心者の私としては、PCを前にかなり怯んでいます。

 まあ、そこは開き直って書くしかなさそうです。このアルバムを初めて聴いた時には、ジャケットに写っているサー・クリフォード・カーゾンの姿かたちと、透明感のあるリリカルでとてもかわいらしいピアノの音色とのギャップに驚きました。びっくり。

 カーゾン卿は、20世紀のイギリスを代表するピアニストですが、完璧を追求するあまり、常にその途上にある演奏を録音することに批判的だったということです。そのため、60年近い演奏活動の中で、わずかに21枚の録音を残すのみ。これはいい話ですね。アーティストはこれくらい頑固でないといけません。

 このアルバムは1970年に録音されていながら、カーゾン卿が27番についてダメ出しをしたために、発売が遅れ、結局、1982年に卿の死後2か月を経て追悼盤として陽の目をみました。そして、多くの識者が述べていらっしゃる通り、モーツァルトのピアノ協奏曲20番、27番の大定番としての地位を不動のものとしています。ドラマチックです。

 共演はブリテン指揮の英国室内交響楽団です。ピアノ協奏曲というから、ピアノから入るのかと思ったら、最初はオケがずっと続くんですね。なかなかに勇壮なしっかりした演奏です。って何だか偉そうで自分が恥ずかしいですね。この演奏も評判が高いとだけ言っておきましょう。

 20番は、モーツァルトが初めて手掛けた短調の協奏曲だということで、悲しみを感じるとか、暗く不安げだといった感想が定番のようです。それは素直に驚きました。そんな風にはあまり感じません。ピアノの音色がガラス細工のような感じだからかもしれませんが、とても全体に綺麗綺麗な感じですし、ほのぼのとしてるような気がします。まあ初心者だから、気にしないでください。

 そして、カデンツァって言うんですか、第一楽章と第三楽章に即興演奏の指定があります。クラシックの演奏家は皆さん即興が苦手だという話を聞いたことがありますから、ここは皆にとって試練かと思ったら、この曲が好きだったベートーヴェンやブラームスが作曲してるんですね。カデンツァを。この作品ではベートーヴェンが演奏されています。これはずるいんじゃないでしょうか。

 私は20番の方が好きなんですが、一般には27番の方が人気があるようですね。最後の年に書かれた他の作品とは一線を画す曲だとされています。確かに20番とは随分違う気がしますが、どこか余裕がない気がします。20番の方がリリカルが強い気がして、そこに惹かれます。

 やはり、仕事に追われているときには聴かない方がよいと思います。

Clifford Curzon (p), Benjamin Britten (cond.) English Chamber Orchestra / Mozart : Piano Concertos No.20 K.466 & No.27 K.595 (1970)