あれも聴きたいこれも聴きたい-John Cage 今年のゴールデン・ウィークの目玉となります。去年も長い作品ばかりを選んで聴きました。今年はこれ。昨年発表されたドイツ人ピアニスト、ザビーネ・リーブナーによるアメリカ現代音楽の巨人ジョン・ケージの74年頃のピアノ・エチュード集です。

 この作品、最近、私の中でジョン・ケージが再びちょっとしたブームだったので、勢いに任せて買ってしまいました。何と4枚組。全部で4時間と20分!本当に買ってよかったのだろうかと危ぶみつつ、一日で全部聴き通すのはとても無理だろうと思って、一日一枚ずつ聴いてきました。

 結論から申し上げると、なかなか素晴らしい音楽体験となりました。いやあ、聴いてみるものですね。

 この作品は南半球の天球図を音楽にしたものです。星座の図にある星々に音を当てはめて楽譜に落としたのがこの作品だと言う事です。記譜にあたっては、中国の易を使っているそうです。

 それが何を意味するかと言うと、作曲者の恣意が全く入らないということです。人間による何らかの意図があるわけではないので、聴いている私としてみれば、全く次の音が予想できないということになります。あらゆる音楽の約束事が成り立たない。繰り返しもない。一音一音が予想を裏切り、意表をついてきます。わりとあっという間の1時間。かなり面白い体験です。

 しかし、演奏するリーブナーは大変です。音を聴くだけだとその大変さが半分も分からないそうで、実際に演奏している姿をみるとそれはもう凄いらしいです。残念ながら見たことないので、書いたものを信じるしかないのですが。

 先に申し上げた方法で右手と左手が別々に仕上げられているので、左手と右手は全く連動することなくピアノを動きますし、両方ともピアノの鍵盤をほとんど全部使うように作曲されているので、左手と右手がしょっちゅう交差するそうです。うーん、見てみたい。

 何でこんな難しい曲を書いたのかといえば、ケージの発言では「難しい曲を書くことに興味が湧いてきた。というのも世界のシステムは多くの人にとって救いようがないように見えるからだ。音楽家が不可能に挑戦する姿を示すことで、感動した誰かが世界を変えてやろうと思うのではないかと思う。」ということだそうです。

 天球図を用いたことにも意味がありそうです。自動記法ですから、乱数を用いて楽譜を作ってもよいでしょうし、それならばコンピューターが得意です。私も、パソコンなど発明もされていなかった時期におもちゃのマイコンを買って、乱数で音楽を作ってみたことがあります。しかし、それだと実につまらないものしかできませんでした。えっ、ケージと一緒にするなって。失礼しました。

 話が横にそれましたが、やはり星の配列には神様の意図が働いていると思います。したがって、この作品には神様が宿ることになりました。調和など全くない音の配列の中に、どこか秩序が宿っているのが感じられます。グランド・デザインです。祈りを捧げたくなります。北半球の天球図だと全く違っていたら面白いですね。

 全部で4冊に分かれた32曲からなっていて、この作品ではすべてが演奏されています。リーブナーさん、よく頑張りました。ユーチューブにはシュライヤーマッハーの演奏の音源しかなかったので、それをアップしておきますが、聴いて驚きました。リーブナーに比べると、かなりテンポが速い。ためをきかせたリーブナーの演奏の方が私は好きです。

John Cage : Etudes Australes / Sabine Liebner, Piano (2011)