あれも聴きたいこれも聴きたい-Sam Cooke 2
 サム・クックの異色作「ナイト・ビート」です。クックがRCAに残した作品はいずれもオーケストラをフィーチャーした王道ポピュラー・タイプだったわけですが、「ナイト・ビート」は少人数のコンボによる演奏をバックにクックが歌うスタイルです。異色というのも変ですが。

 クックはこの作品を録音する1か月前に、アルバム用にライヴ録音をしていました。そちらはあまりにRCAのクックのイメージと違いすぎるということでお蔵入りになっています。後に発表されて世の中を震撼させるわけですが、とにかくこの時点では没になりました。

 プロデューサーのヒューゴ&ルイージはそのライヴ録音に何か感じるものがあったんでしょう。埋め合わせとばかりに、スモール・コンボによるアルバムが制作されることになりました。ただし、アグレッシブな側面は封印し、落ち着いた歌唱によるアルバムです。

 夜の仕事がはねた後のクラブ、たばこの煙が残るアフター・アワーのもやもやした空気の中で、歌う楽しみのためだけにクックがパフォーマンスしている、そんな親密空間をパックした作品だとヒューゴ&ルイージは書いています。ミスター・ソウルにふさわしい作品です。

 スモール・コンボをバックに歌うクックは、いつもよりもブルースが強い選曲で、実にリラックスして歌っています。後片付けをしているウェイターたちも、つい手を休めて聴き入ってしまう。居座っている客の話し声もだんだん静まっていく。そんな小粋な雰囲気です。

 演奏も冴えています。ここではクックに見いだされたまだ10代半ばのビリー・プレストン、後の5人目のビートルズのオルガンも楽しめます。ヒットした「リトル・レッド・ルースター」のちょっとコミカルな演奏などはとりわけ素敵です。若々しい。

 初期のクックを支えたレネ・ホールもギターを弾いていますし、サイモンとガーファンクルを始め、6000枚のシングル曲にかかわったというハル・ブレインもドラムを叩いています。そして印象的なピアノはロサンゼルスの伝説、レイ・ジョンソンです。

 クック自身の名前が作曲者にクレジットされている曲もありますけれども、それらもトラディショナルな曲をクックがアレンジしたという性格のもので、基本的にはカバー曲ばかりです。その選曲が渋い。いつものスタンダード曲とは一味違います。

 ローリング・ストーンズのカバーで知られる「リトル・レッド・ルースター」と「ユー・ガッタ・ムーヴ」の貫禄、エルヴィスも歌った「シェイク・ラトル・ロール」の軽やかさなどなど、全体にブルージーでかつルーズにまとまっていて捨て曲などありません。

 それにしても凄い歌手です。その魅力はやはり声でしょうか。どっしりと太い声です。綺麗綺麗な声ではありませんけれども、微妙なこぶしの効いたクックの声にはとろけそうです。しかも演奏がシンプルゆえにその魅力がダイレクトに伝わってきます。凄いボーカルです。

 本作品からはヒット・シングルもありませんし、アルバム自体もチャート入りしていません。それでも、これまでとは一味違うクックの歌声の魅力は本作品を心に残る名盤としていつまでもその輝きが消えることはありません。この作品が一番好きだという人も多いことでしょう。

Night Beat / Sam Cooke (1963 RCA)

*2012年4月23日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Nobody Knows The Trouble I've Seen
02. Lost And Lookin'
03. Mean Old World
04. Please Don't Drive Me Away
05. I Lost Everything
06. Get Yourself Another Fool
07. Little Red Rooster
08. Laughin' And Clownin'
09. Trouble Blues
10. You Gotta Move
11. Fool's Paradise
12. Shake, Rattle, And Roll

Personnel:
Sam Cooke : vocal
***
Rene Hall, Barney Kessell, Clifton White : guitar
Cliff Hills : bass
Sharky Hall : drums, tambourine
Hal Blaine : drums
Ray Johnson : piano
Billy Preston : organ