あれも聴きたいこれも聴きたい-Sam Cooke
 マイアミにあるハーレム・スクエア・クラブで行われたサム・クックのライヴを収録したアルバムです。ライヴが行われたのは1963年1月12日の夜です。録音されているからには発表する予定だったのでしょうが、実際に陽の目を見たのは1985年6月のことです。

 当時クックが所属していたRCAレコードは、ここでのクックのエネルギッシュなステージがRCAが売り出しているクックのイメージに合わないと判断して、この作品をお蔵入りにしてしまっていたとのことです。首脳陣もぶっ飛んだのはぶっ飛んだんでしょう。

 RCAが名作「ナイトビート」の次に発表したのが、ポール・アンカ、ニール・セダカとの「3グレイト・ガイズ」というアルバムだったことを考えると、お蔵入りにした判断も納得できます。ポピュラー界を代表する二人と並ぶ人にしては破天荒に過ぎるわけです。

 ピーター・バラカン氏によれば、サム・クックはレイ・チャールズ、ジェイムズ・ブラウンと並ぶ巨人で、1950年代のR&Bの世界にゴスペルの要素を持ち込んで、1960年代ソウル・ミュージックの基礎を築いた偉大なアーティストです。異論はありません。

 しかし、ここ日本では他の巨人たちに比べると知名度が劣ると言わざるを得ません。それはひとえにRCAの米国白人向けのイメージ戦略のせいだと思われます。もしも、当時このアルバムが発表されていれば、様相はまるで変わっていたかもしれません。

 このライヴは1か月に及ぶクックのツアーの一部として行われたものです。バックを務めるのはサックス奏者キング・カーティスのバンドで、いつものクックのバンドからギターのクリフトン・ホワイトとドラムのアルバート・ガードナーが合流しています。

 カーティスは後にアレサ・フランクリンなどとの共演で人気を博しますが、この頃はまだ20代の若さです。サックス2本にギターも2本、ドラム、ベース、ピアノの7人構成で荒々しくもご機嫌な演奏を聴かせてくれます。クックも大変気持ちよさそうです。

 ハーレム・スクエア・クラブはマイアミの黒人街にある小さなクラブで、集まった聴衆はゴスペル時代からクックを応援しているような黒人ファンばかりです。ここではクックはポール・アンカ的なイメージなど全く無用とばかりにリミッターを解除して初っ端からパワー全開です。

 RCAに残した作品とは一味違う、ごつごつした声で力強くシャウトするクックが聴かれます。そして、魅力的な声による独特のこぶしは誰にもまねできない素晴らしさです。観客との掛け合いも盛り上がり、失神者が出てもおかしくない熱狂のステージです。

 このアルバムは20年後にテープが発見されて陽の目を見ると瞬く間にライヴ・アルバムの傑作として評価され、史上最高のアルバム○○選などが企画されると必ずといっていいほど上位にランクされています。ソウルのアルバムの最高峰の一つになっているわけです。

 クックはこのライヴから2年足らずで33年間の短い生涯を終えてしまいます。それを思うとこのライヴが発見されていなかったとしたら、私たちはクックの凄さを本当には理解できていなかったのかもしれません。ともかくも発表されたことに感謝するしかありません。

One Night Stand! Live At The Harlem Square Club, 1963 / Sam Cooke (1985)

参照文献:「魂のゆくえ」ピーター・バラカン(ARTES)

*2012年4月21日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Soul Twist / Introduction
02. Feel It
03. Chain Gang
04. Cupid
05. Medley : It's All Right / For Sentimental Reasons
06. Twistin' The Night Away
07. Somebody Have Mercy
08. Bring It On Home To Me
09. Nothing Can Change This Love
10. Havin' A Party

Personnel:
Sam Cooke : vocal
***
Cornell Dupree, Clifton White : guitar
Jimmy Lewis : bass
Albert "June" Gardner : drums
George Stubbs : piano
King Curtis, Tate Houston : sax