あれも聴きたいこれも聴きたい-Cars2
 ポップ・アートの画家ピーター・フィリップスの絵がジャケットを飾り、巨匠アンディ・ウォーホールがMVを手掛けるというとってもアートな展開が嬉しいカーズの5作目です。この作品はカーズの名前を殿堂に刻むことにつながった特大ヒット・アルバムです。

 本作からは「マジック」、「ドライブ」、「ユー・マイト・シンク」、「ハロー・アゲイン」と4曲のトップ20ヒットが生まれました。中でも「ユー・マイト・シンク」はMTVで嫌というほど流され、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を抑えて、MTVの「ビデオ・オブ・ザ・イヤー」を獲得しています。

 「ユー・マイト・シンク」のビデオはストーカー心理を見事に描いた傑作でした。また、「ドライブ」のビデオに登場する女性はリック・オケイセックと結婚しました。いろいろな縁があるものです。なお、ウォーホールが監督したのは「ハロー・アゲイン」です。

 この作品ではプロデューサーに、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったマット・ランジを迎え、バンドとの共同プロデュースとなりました。結果として、典型的なきらびやかな1980年代ポップ・サウンドが出来上がりました。1980年代ベストのコンピには必ずどれかが入ってきます。

 相変わらずアルバム作りは大そう丁寧です。一音一音に神経が行き届いたサウンドにはフェアライトの活躍も見逃せません。シングル・ヒットに依存しないまとまったアルバムとなっており、どの曲もキャッチーなメロディーと、練られた構成で、捨て曲なしの傑作です。

 よく聴くと、初期の頃から曲調が大きく変わるわけではないのですが、よりゴージャスになり、ごつごつした感じが一掃されました。私は、初期の頃のやや不器用なサウンドの方が好きなので、ちょっとさびしいです。完成度が高いとよそよそしく感じてしまいがちです。

 このアルバムの一曲「ドライブ」は、結果的にカーズ最大のヒット曲になりました。感動的な1980年代なバラードで、歌っているのはベースのベンジャミン・オールです。この曲は彼の代表曲となり、彼が2000年に癌で亡くなった時には追悼で流されました。名曲です。

 この曲は1985年に行われたライブ・エイドのきっかけにもなりました。歌詞はもともと恋を描いたものです。♪今夜誰が君を家まで車で送ってくれるだろう♪でドライブが出てくるのですが、他のパートも♪誰が関心を示してくれるだろう 君の夢に♪という問いかけが中心です。

 この歌がエチオピアの餓えた子どもたちの映像に合わせて流されると、それはそれは大きな効果をあげました。涙しない人はいなかったでしょう。歌の力を見せつけた瞬間でした。ボブ・ゲルドフは心動かされ、ライブ・エイドの企画につながっていきます。

 ところで、それから20年後に行われたライブ8でも、この映像が流されました。なんとその時、映像に映っていた女の子が立派に成人した姿をステージに現したのでした。これが文句なくライブ8最大の感動の瞬間でした。

 こうしたイベントにはいろいろと批判もあるでしょうし、「ドライブ」の歌詞を不適当だととる人もいるのでしょうが、私は素直に感動しました。歌の力は凄い。歌詞もはまったとは言え、やはり緻密なサウンドと美しいボーカルの力です。世の中を変える力を歌はもっています。

Edited on 2020/08/19

Heartbeat City / The Cars (1984 Elektra)