あれも聴きたいこれも聴きたい-Cars
 「錯乱のドライブ」などと大そうな邦題が付けられたカーズのデビュー作は1978年の発表です。この時代ですから、カーズはイギリスを中心としたニュー・ウェイブへのアメリカからの回答のような位置づけを与えられました。今思えばかなり違いますけれども。

 カーズはこのデビュー作を含めて、いったん解散するまでに発表した6枚のアルバムをすべてミリオン・セラーにしています。凄いことなのですが、どうも日本では根強いファンはいるものの、今一つぱっとしない感じがします。恐らくニュー・ウェイブ・バンドとされたせいでしょう。

 カーズは曲作りの大半を担うボーカルとギターのリック・オケイセックと、ボーカルとベースのベンジャミン・オールを中心に結成されたバンドです。二人はフォーク系からジャジー系などさまざまなバンドを共に過ごしてきて、ついにカーズに行き着きました。

 メンバーはリード・ギターのエリオット・イーストン、キーボード他さまざまな楽器を操るグレッグ・ホーク、ジョナサン・リッチマンのモダン・ラバーズに在籍していたドラムのデイヴィッド・ロビンソンを加えた5人組です。いずれもキャリアは長く、一癖も二癖もあるミュージシャンです。

 本作品は彼らが作ったデモ・テープの中から「燃える欲望」が一部のラジオDJに気に入られて、ちょっとしたヒットとなったことから、レコード会社からのオファーが殺到した結果として、エレクトラ・レコードと契約して制作されたデビュー作です。

 米国でのチャート最高位は18位どまりでしたが、2年半近くもチャートに居座るロング・セラーとなりました。その結果、発売から10年以上たって米国だけで600万枚もの売り上げを記録しています。捨て曲なしのアルバムであることがロングセラーの秘訣らしいです。

 本作からは「燃える欲望」、「今夜は逃がさない」、「ベスト・フレンズ・ガール」、「グッド・タイムズ・ロール」の4曲がシングル・カットされ、いずれもそこそこのヒットを記録し、カーズを代表する楽曲として長らく親しまれることになりました。

 シングル・カットされていない曲もラジオでは頻繁にかかっていたそうで、たとえば地味な曲「ムービング・イン・ステレオ」でさえ、「初体験/リッジモンド・ハイ」の中の伝説のシーンに使われています。フィービー・ケイツは私たちの世代のアイドルでした。

 プロデューサーはロイ・トーマス・ベイカーです。エレクトラのチョイスらしいですが、この頃のベイカーと言えばクイーンでの大成功が記憶に新しい。本作でも自信満々の彼はバンドの顰蹙を買いながらも分厚いコーラスを取り入れたりしていて面白いです。

 彼らの曲の特徴は、ぶきぶきしたリズム・ギターと、わりと生な感じの音、聴きこむと複雑な構成なのに、とてもキャッチーでポップなメロディー、そんなところでしょうか。聴けば聴くほど味があります。今回、特に後半部、LPだとB面にあたる楽曲の素晴らしさを再発見しました。

 ジャケットに美女が配されています。このせいで美女ジャケの先輩ロキシー・ミュージックの影響を過大に評価する結果になってしまいました。シンセ・ポップでもあり、ギター・ロックでもあるアメリカンなロックが基本のカーズとロキシーは随分違うと思いますけれども。

Rewritten on 2020/08/17

The Cars / The Cars (1978 Elektra)