あれも聴きたいこれも聴きたい-Steve Reich もとより楽器に貴賤の別があるわけではありませんが、身分の高い楽器と言えば、まずはピアノでしょう。やはり先生が弾く楽器ですからね。それに田舎の小学校では誰も見たことがなかったバイオリンも偉いです。お金持ちの香りが漂ってきます。

 一番身分が低いのは、皆が安物を買わされたリコーダーやその辺に転がっていたカスタネットでしょう。トライアングルもそうかもしれません。それより、ちょっと上等だけれども大して身分が高くないのが、わりとなじみ深い木琴や鉄琴ですかね。

 そんな木琴や鉄琴が大活躍するのがこの作品の一曲目「大アンサンブルのための音楽」です。ほぼ主役をはっています。他の楽器も木琴・鉄琴をまねしているかのような音の響きになっています。心躍る大出世ですよね。こんない素晴らしい楽器だったんだなあと、しみじみします。

 二曲目は「バイオリン・フェイズ」。初期ライヒのおはこであるちょっとずつずれていく作品の一つです。それをバイオリンでやっています。バイオリニストはまず一通り録音した後、それに合わせて二回目を録音。さらに三度目、四度目と重ねていきます。同じようなメロディーが、ちょっとずつずれてきて、とても変な感じになってきます。

 私はライヒのコンサートで、このドラム・バージョンを見ました。さすがにライブなので一人ではなく、4人のドラム奏者がシンプルにやっていました。難しいでしょうね、合わせるのではなくちょっとずらす。妙技ですよね。♪静かな湖畔の森の蔭から♪ってな感じです。

 三曲目は「八重奏曲」。一曲目と同じような作品であまり区別がつかない構造的な作品ですが、こちらには木琴や鉄琴は入っていません。その代わりに活躍するのはピッコロですかね。しかし、随分と落ち着いた印象を受けます。この作品はその後「エイト・ラインズ」と呼ばれる作品に発展していったそうです。そちらの方が評判はよいようですが、残念ながら未聴です。

 スティーブ・ライヒの音楽はミニマル・ミュージックと呼ばれます。音の動きを小さくして、音型の繰り返しを多用するからです。こういうと何やら難しそうですが、ミニマルなパターンを塗り重ねて曲を構成していく様は、知的でありながら実に肉体的でもあります。小川のせせらぎのような、それも山の中の速い流れの渓流のような音が心を躍らせます。

 単純なリズムの反復は、民族音楽や大衆音楽の世界では普通のことですから、エンターテインメントの世界に受け入れられやすいのでしょう。テクノなどのクラブ系の音楽にも近いです。電気系統に相性がいいと思いますが、それをあえてアナログでやるところもなかなか渋いです。

 「大アンサンブルのための音楽」は184BPMから212BPMと、超高速リズムです。BPMは一分間あたりのビート数、高速で有名なドラムン・ベースが160以上といいますから、ずっとこちらの方が早いです。そう思うと凄いでしょ。

 この作品はジャズのレーベルECMから発表されています。それは大正解でした。クラシックや芸術音楽の世界では、原音に忠実に録音することが第一義で、プロデューサーの地位はあまり高くないようです。しかし、必ずしもそれではすまないのが録音音楽の世界だと思います。そのあたりを知り尽くしているECMのマンフレッド・アイヒャーのプロデュースによってこの作品の輝きが増していると思います。

 このCDはそれこそ何度も聴きました。お勧め作品です。

Octet, Music For A Large Ensemble, Violin Phase / Steve Reich (1980)