公開日時の設定を1ヶ月間違えてました(o_o)
 ピンク・フロイドの三枚目のアルバムは映画のサウンドトラックです。映画の名前は「モア」、イラン生まれのフランス人監督バルベ・シュローダーの作品です。監督はこの映画を製作した時にはまだ20代でした。時は1969年、若者はいたって元気でした。

 映画はスペインのイビザ島を舞台としたヘロイン・ジャンキーのお話で1960年代を覆ったカウンター・カルチャー全開のお話だそうです。見ていないので偉そうなことは言えませんが。ドラッグを実際に使用しており、公開当初は物議を醸した様子です。

 そんな映画ですから、サイケデリック文化の真っただ中にいたピンク・フロイドに白羽の矢が立ったのも納得のいく話です。おまけにかなりの低予算映画だったようですから、恐竜にしてもまだ生まれたてだったピンク・フロイドがぴたっとはまりました。

 監督はサウンドトラックの制作にあたって、映画に合わせるのではなく、劇中でラジオをつけた時に流れてくるような音楽を所望したと伝わっています。ただ、それにしてはいかにも映画のサントラらしいインストゥルメンタルの小曲もたくさん入っているのが解せません。

 アルバムは全13曲を収録しており、そのうち7曲がインストゥルメンタルです。後のピンク・フロイドを特徴づける複雑な構成の大曲は入っておらず、実験的ではあるものの、いずれも一つのアイデアをもとに作り上げたシンプルな楽曲が並んでいます。

 そのシンプルさが功を奏したのか、ピンク・フロイドはこのアルバムの録音をわずか8日で終えたそうです。すでにライヴのレパートリーに入っていた曲を流用したことも大いに時間の節約に貢献したそうです。それにやはりサントラですしね。

 本作品はピンク・フロイドのディスコグラフィーの中では、同じくサントラの「雲の影」と並んでどうも扱いが小さいです。サウンドトラックは他人の注文に合わせて制作するものですから、アーティスト本来の作品とは少し毛色が違う、悪く言えば邪道な気がするのでしょう。

 通常のオリジナル・アルバムでも、大勢の人が係わるわけですから、所詮は程度の差でしかありません。新しい局面が開けることもあるでしょうし。シド・バレットが抜けた新生ピンク・フロイドにとって、最初のアルバムがサントラであったことはむしろ幸運だったように思います。

 この作品にはデヴィッド・ギルモアの背景の一つを感じさせるスパニッシュ・ギターの曲が入っていたり、アイデアの断片を放りだしたかのような曲もあれば、ライブの定番になる「グリーン・イズ・ザ・カラー」や「シンバライン」などの彼ららしいとても美しい曲もある。

 過剰に気負うことなく、新生フロイドのサウンドが試されていきます。広がりを感じるギルモアのギター、チョッパー奏法とは無縁のロジャー・ウォーターズのベース、決してはずまないファンクの対極にあるようなニック・メイソンのドラム。もわーっとした空気が充満します。

 このアルバムも恐るべきことに英国ではトップ10入りするヒットを記録しました。当初「幻想の中に」という邦題で発表された日本でも洋楽としては売れた方です。後の大成功をここで予感した人もいたことでしょう。大変充実したサウンドトラック・アルバムです。

*2012年3月30日の記事を書き直しました。

Music From The Film More / Pink Floyd (1969 Columbia)



Songs:
01. Cirrus Minor
02. The Nile Song ナイルの歌
03. Crying Song 嘆きの歌
04. Up The Khyber
05. Green Is The Colour
06. Cymbaline
07. Party Sequence パーティの情景
08. Main Theme 「モア」の主題
09. Ibiza Bar
10. More Blues 「モア」のブルース
11. Quicksilver
12. A Spanish Piece スペイン風小曲
13. Dramatic Theme 感動のテーマ

Personnel:
Roger Waters : bass, vocal
David Gilmour : guitar, vocal
Nick Mason : drums
Richard Wright : keyboards