あれも聴きたいこれも聴きたい-America
 故郷は遠きにありて思うものだと申しますが、外国に住んでいると母国を思う気持ちも一入です。アメリカはそんな外国育ちのアメリカ人三人が結成したフォーク・トリオです。ロンドンのアメリカン・スクールで知り合った三人です。

 彼らは世界をまたにかける米国軍人の父親を持ち、母国をほとんど知らないで育ったそうです。それでもアメリカンな音楽を指向するのですから世の中は面白いです。米国かぶれのイギリス人と思われないようにつけた名前がアメリカです。
 
 このアルバムはバンド名を冠したアメリカのデビュー・アルバムです。発表時点では二人のメンバーがまだ10代でした。正真正銘の若者です。発売当時はあまり売れませんでしたけれども、シングル「名前のない馬」が事態を打開します。

 この曲はオランダで火が着き、英米で瞬く間にシングル・チャートのトップへと駆けあがりました。そこで急きょ同曲をアルバムに加えて再発売したところ、アルバムも大ヒットし、ついに全米1位を獲得すると6週間もその座を守りました。洋楽としては大ヒットです。

 無名の新人の快挙です。日本でも「名前のない馬」はオリコン・チャートで16位を記録するヒットになっています。ちなみに手元の紙ジャケ再発盤ではもちろん「名前のない馬」も秀くされていますが、ジャケットには曲名は記載されていません。驚くべき再現度です。

 最初にさわやかフォーク・トリオなんて書いてしまいました。アコースティック・ギターを中心にしたボーカル・ハーモニーを聴かせるバンドですから、そういうことなのですが、若干「さわやか」に居心地の悪いものを感じます。

 まだベトナム戦争を戦っていたアメリカです。ジャケットにネイティブ・アメリカンを持ってくるあたり、強いだけのアメリカではなく苦悩するアメリカなんですね。サウンドはさわやかなものの、全体を覆う雰囲気はやや重苦しいです。

 たとえば、アルバム最後の「ピジョン・ソング」は、飼ってた鳩や犬を殺してしまう少年の話で、ゴールディングの「蠅の王」を思わせる話になっています。このように、全体にサリンジャーのような若々しい苦悩にあふれた様子がほの見えます。

 大ヒットした「名前のない馬」もとても地味な曲です。あんなに売れたというのは、今から考えればにわかに信じがたい話です。メロディーも単純ですが、陰影に富んでいて、けして「さわやか」で片づけられるような曲ではありません。

 ところで、彼らはこの大成功のあと、息の長い活躍をつづけ、その人気も絶大なものがありました。しかし、デビュー時のインパクトがやはり一番大きいです。おそらく、ロックやヒップホップよりも、当時のフォークは若者の音楽だからでしょう。

 音楽的な成熟を求めない音楽。何も怖くない若さの魅力を極限まで発揮できる音楽がフォークなんだと思います。昔はアコギを抱えて歩くベルボトム姿の先輩はかっこよく見えたものです。ベテランには出せない初心の魅力が最大限に発揮された作品になりました。

Edited on 2021/5/22

America / America (1971 Warne Bros.)