あれも聴きたいこれも聴きたい-伊福部昭 ゴジラは私たちの世代にとってはアイドルそのものです。ゴジラに代表される特撮怪獣映画は、お正月と夏休みになくてはならない楽しみでした。私も欠かさず映画館に見に行ったものです。幼稚園に入る頃から中学生くらいまででしょうか。

 今の時代に置き換えると「ポケモン」でしょうかね。かたやアニメですし、世間がうるさくなってきていますから、表現的には昔のような残酷なものではなくなっていますが、描き出す世界観はそれほど変わっているとも思えません。社会性もそれなりにありますし、何よりも異形の者たちの持つ破天荒な魅力と一抹の寂しさのようなものは不変です。

 そういうことからすれば、伊福部昭はポケモンの音楽を作った人というイメージでしょうか。さぞや子供たちのアイドルかと言えば、そんなことは全くありません。

 伊福部昭は日本の誇るクラシック界の大御所です。独学で作曲を始め、北海道の森林事務所に勤務しながら書いた管弦楽作品がパリで国際的な賞を獲得して世界的に認められた異色の人です。その後、芸大の講師をやったり、東京音大の学長となったりして、勲章も受けた人ですから、世間での評価は揺るぎないものがあります。

 しかし、彼の名を広く世間に轟かせたのが、映画音楽界の巨匠としての顔です。映画音楽といっても、彼の作品はしっかりしたオーケストラ作品で、道を踏み外しているわけではなく、大衆に媚びているわけでもありません。質実剛健、真向唐竹割の豪快な作風です。

 とはいえ、昔は子供たちがサントラに注目するなんていう事はありませんでした。家でゴジラのサントラを聴いている子供を私は知りません。私も大人になってからですね。伊福部昭の名前をゴジラと結びつけて知ったのは。

 子ども心には映像と密着した記憶として残っています。改めて、この作品を聴いていますと、いくつかの作品では映像が目に浮かぶようです。当時、怪獣は恐ろしかった。その時に感じた恐怖や、怪獣に立ち向かう地球防衛軍の姿に鼓舞された興奮が蘇ってきます。素晴らしい。

 ここに収められた作品は初代「ゴジラ」から怪獣映画に一旦幕が下ろされる「メカゴジラの逆襲」までの15作品からの抜粋です。年代的には54年から75年までです。私の生まれは60年ですから、半分知らないかと言えば、そうでもなく、昔はリバイバル上映もあったんですね、全作品見ていると思います。

 映画としては、「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」が一番印象に残っています。心に傷を負いました。何ともやるせない異形の二人の対称的な生涯に人の世の無常を感じたのです。6歳でしたけど。

 彼によれば、特撮映画では「伸び伸びと作曲ができる」とのことで、「納得しがたい観念的な芸術論に悩まされること」もなく、「スクリーンの映像と結合すると『効用音楽』として不思議な効果を生む」ということです。過不足ない解説ですね。もう全くその通りです。

 音響的なアイデアも豊富に詰め込まれた、勇ましくて恐ろしい音楽がてんこ盛りです。しかし、先祖がえりのような心地よさも感じます。私の音楽に対する観念の大きな部分が彼の音楽で形づくられたのでしょうね。

ミレニアム・ゴジラ・ベスト 東宝特撮映画傑作集 / 伊福部昭 (2000)