あれも聴きたいこれも聴きたい-Washed Out バイクの乗り方がなってません。私はバイク乗りですから、その辺にはうるさいんです。それにしても何だかレトロなPVです。音の方もある意味レトロな感じがするのですが、PVの方向とは少し違うような気がします。

 ウォッシュト・アウトは、アーネスト・グリーンというアメリカ南部のニートな若者のステージ・ネームです。彼は大学を卒業後、就職が決まらないため、故郷のジョージアに帰り、寝室で音楽を作り始めました。それをマイ・スペースに載せたところ、影響力のあるブロガーたちの注目を集めてデビューを飾りました。これはそんな彼の初めてのアルバムです。

 ここで聴かれる音楽は、シンセやサンプリングを使った深いアンビエントなトラックを背景に、機械で処理したボーカルがシンプルなメロディーを歌う、というものです。ヒップホップなどのダンス・ミュージックの影響も顕著ですが、ビートはそれほど前に出ず、本人曰く「ダンス・ミュージックの影響が混ざったポップ・ミュージック」となっています。

 レトロと申し上げたのは、80年代のポスト・パンク期のサウンドを彷彿とさせるからです。こうしたアンビエントなトラックは、当時はスタジオ技術を駆使しなければできなかったことですから、ただそれだけで感動したものでした。全く新しい音だと感じたんですね。しかし、今やコンピューターで簡単に出来てしまいます。時は流れました。

 ただ、楽曲そのものは、時代が進んでもそれほど大きく変わってはいません。ビートの感覚は昔とはかなり違うのですが、ボーカルがなぞるメロディーやサウンドそのものは懐かしいです。当時は、こうしたサウンドが大好きでしたから、とても心地よく聴けてしまいます。

 それにしてもベッドルームでしこしこと音楽作りに励む人も一般的になってきたものです。昔は変人でしたよね。クレイ・アニメを作る人のような感じです。ですから、そういう人の作り出す音楽というのは一般的なものではなく、世間と相容れないものというのが通り相場でした。こんなポップな楽曲が出てくるようになったんですね。

 ウォッシュト・アウトは、ライブではバンドで演奏しています。しかし、「反復の多い曲が好き」なので、「プログラミングの方がずっと簡単」だったからと、そちらがベースになっています。このこだわりのなさがいいです。プロデューサーはベン・アレンという人で、「僕がベンの手掛けるサウンドで気に入ったのは、低音域だった」ので、そういう部分を取り入れたかったので選んだ、と屈託がありません。

 なんだかいい人ですね。サウンドもとてもすっきりして折り目正しい。早く就職が決まるといいですね、と言いたいところですが、もうその必要もなさそうです。次は映像の方にも力を入れて、すくすく育ってほしいものです。

 ところで、こういう音楽をチルウェイブないしはグローファイと言うのだそうです。ジャンル名を聴いても音が想像できません。おそらく10年後にはジャンル名は忘れられているジャンル名でしょうから、覚えていてもしょうがないでしょう。

Within And Without / Washed Out (2011)