あれも聴きたいこれも聴きたい-倉木麻衣06 今、検索ワードの上位に西行法師が来ています。分からない人には全然わからないでしょうが、これは大河ドラマ「平清盛」の影響です。昨日の回は藤木直人演じる佐藤義清が主役でしたが、ずっと皆の心にひっかかっていたんですね。こいつ誰だと。最後に、「後の西行法師」と明かされて、ああそうだった、と改めて検索してみた人が殺到したわけです。

 関係ないとお思いでしょうが、この倉木麻衣のアルバムには西行法師の歌が詠み込まれているのです。どや!っと訳もなくどや顔になります。「道のべに清水流るる柳かげしばしとてこそ立ちどまりつれ」、新古今集が「ステイト・オブ・マインド」という曲に出てきます。彼女の詩作にも工夫が見られます。こう来たか、と感心しました。同曲には、百人一首からの引用もあり、素敵です。

 このアルバムは前作から1年の時を隔てて発表された作品です。ちょっと暗めのジャケットの感じがいつもと違います。今回はDVD付き限定盤も発売され、私は迷わずそちらを買いました。ただ、買った当時はあまり聴いていなかったなあと反省中です。

 今回のアルバムは、倉木麻衣研究のちゃぶーさんによれば、「GIZA作曲家群総出の“集団指導体制”の時代」に突入した作品です。前作もまあそうでしたが、今回も同じ会社のアーティストが中心です。もともとデビュー作以来の作曲家大野愛果もギザ所属ですしね。

 このアルバムには、シングル曲が3曲入ったいつもの安定した形がとられています。今回は、レゲエ調あり、ラップありとさまざまな冒険に手を染めています。最大の問題作は「ボイス・オフ・シークレット・プレイス」で、これは50人の倉木麻衣によるボーカルのみの作品。意欲的ですね。これは素敵な曲になりました。

 しかし、ここでの冒険は「イフ・アイ・ビリーヴ」の時とは違って、彼女に背伸びを強いるものではなく、無理のない範囲での冒険になっています。ファンとしては安心して聴ける類の冒険ですね。

 それよりも、この作品の一番の収穫は「ジュリエット」ではないかと思います。ギザ所属のガーネット・クロウの人の曲ですが、これが実に歌謡曲的な曲なんですね。特にサビの部分の節回しがそうです。で、これがうまい。彼女の歌唱にぴったりです。

 前作がR&Bの呪縛から逃れる第一歩でしたが、この作品はさらにその路線を推し進めた格好です。アイドル・ポップス的な展開です。初期の頃の若い歌唱から、落ち着いた深い歌唱に変化してきていて、その変化がアルバムの色を変えてきているということでしょう。

 昔は、同じような曲ばかりだなと思わなかったと言えば嘘になりますが、よく聴くと、歳とともに自然に変化してきていて、時々の花はそれぞれに美しいなあと「しばしとてこそ立ちどまりつれ」といった心境です。

Diamond Wave / 倉木麻衣 (2006)