あれも聴きたいこれも聴きたい-Blue Oyster Cult
 サーカス人形のようなおじさんがジャケットになっています。リアルなのか何なのか、とても不気味な印象を受けます。シュールです。このおっさんが左手で操っているのが、タロット・カード。というわけで邦題は「タロットの呪い」とつけられました。

 彼らは名前の醸し出すイメージもあってかなりオカルトな感じがします。それが一般に了解されていたからこその邦題でしょう。しかし、グループ名はグループの生みの親によれば「地球の歴史を監視するエイリアン組織」のことだそうです。わけがわかりませんね。

 ブルー・オイスター・カルトのこれは4作目のスタジオ・アルバムにして、スタジオ盤の中では最大のヒット作です。ここには彼らの代表曲「死神」が収められています。彼らの曲の中で一番ポピュラーな曲として、松井秀喜のテーマ「ゴジラ」と双璧をなします。

 この「死神」は大いに売れて、あわや全米トップ10に入るところでした。今でも1970年代の名曲を集めたコンピレーションには必ず収録される素晴らしい曲です。ドライブにぴったりなんですね。疾走感があります。バーズの音楽のようだと言われています。

 ところで、彼らはヘビー・メタルの語源になった人たちでもあります。もともとヘビー・メタルは「裸のランチ」のウィリアム・バロウズが小説「ソフト・マシーン」の中で使った言葉で、それをBOCが自分たちの音楽を形容するのに使ったのが語源になったと言われています。

 確かに3作目までのアルバムは米国版ブラック・サバスとされた通り、オカルト的なイメージ戦略で米国版ハード・ロックの極北たるサウンドを展開していました。そこへきてバーズ的な爽やかでポップなロックを奏でたのですから、ファンの間では賛否両論ありました。

 しかし、ブルー・オイスター・カルトはブルー・オイスター・カルト、爽やかロックとはいえ、おどろおどろしい雰囲気は健在で、全体にどすが効いています。やはり重いんですね。「死神」すらスティーヴン・キングの「ザ・スタンド」の冒頭に流れますし。

 本作ではついにパティ・スミスがボーカルをとりました。「ヴェラ・ジェミニの復讐」でアルバート・ブーチャードとデュエットしています。このボーカルのバラエティが本作の特徴でもあります。何とメンバー5人全員がリード・ボーカルをとっています。

 「死神」はリード・ギターのバック・ダーマが歌っていますし、「懺悔」ではパティの恋人だったアラン・レイニアが歌います。本来のボーカリスト、エリック・ブルームは4曲に過ぎません。この多彩さがBOCの音楽の幅を広げていることは間違いありません。

 もともとBOCの楽曲はキャッチーなリフが命でしたからこうしたポップな楽曲もお手の物だったでしょうし、各メンバーが複数の楽器を演奏してさまざまなサウンドに対応できる人たちですから、楽曲のバラエティがとにかく広い。本作の全米29位は当然のことでした。

 彼らは、こうしてニューヨークに君臨していきます。キッスやエアロスミスを前座に従えた姿は、太刀持ちと露払いを従えた白鵬のようなものだったんでしょうね。今聴くとメジャーな王道を行く音楽ですが、当時は地下世界の感じがしたものでした。かっこいいバンドでしたね。

(2021/8/22に書き直しました。)

Agents of Fortune / Blue Öyster Cult (1976 Columbia)