あれも聴きたいこれも聴きたい-10cc2
 まずは邦題を誉めなければなりません。10ccの音楽を見事に言い表しており、ジャケットのコンセプトも過不足なくとらえています。原題自体も秀逸なものですが、「びっくり電話」の方が日本向けにはぴったりです。当時の洋楽担当の方に拍手を送りたいと思います。

 ジャケットはヒプノシスの傑作です。四角いジャケットを対角線で二つに分けるなどという、美術教師に怒られそうな構図ですが、小細工を満載した謎解きの面白さを堪能させてくれるジャケットです。見開きジャケットの内側と外側の連続性が見事です。

 内側の写真は大勢が集っているのに全員が受話器を握っているという、スマホ社会を予見した内容になっています。時代を先取りしていますけれども、電話機を見たことがない今どきの小さい子どもだと何の写真なのか皆目見当がつかないかもしれませんね。

 本作品は10ccの4枚目のスタジオ・アルバム「びっくり電話」です。各楽曲はうっすらと電話が絡んでいるようですが、全体を通したコンセプトがあるわけではなく、前作同様に何となく全体が一体となっているようななっていないような10ccワールドが炸裂しています。

 これまで同様にどの楽曲も普通のポップ・ソングにもできるところをあえてそうはせず、一ひねりも二ひねりも加えた複雑なアレンジを施して、得も言われぬポップ・ワールドを展開しています。四人のバランスがぎりぎりのところで保たれた成果が現れています。

 たとえばシングル・ヒットした「アイム・マンディ」は、まずエリック・スチュワートが航空会社のポスターを見上げる浮浪者を見て物語を思いつきます。10ccポップ組のグレアム・グールドマンにその着想を話して二人で曲を書きあげましたが、思うようにいかず没になりかけます。

 そこに10cc音響組の一人ケヴィン・ゴドレイがやってきて、やはり刺激が足りないということでいろいろと意見をした結果、美メロなのに複雑な構成でコーラスワークも素敵な曲に仕上がったということです。四人の間の役割分担がよく分かります。

 もう一つのシングル・ヒット曲「芸術こそ我が命」もエリックとグレアムの曲で、「アイム・マンディ」ほどではないにしても、中間部のケヴィンが歌う部分などはいかにも10ccらしいです。ケヴィンとロル・クレームの音響組の曲も多く、ここにも四人のチームワークが光ります。

 しかし、前作に比べると地味な印象を受ける作品となっており、その分安心して聴けるともいえます。冒険が少ないわけではなく、面白いアレンジが続くのですが、こちらも刺激に慣れてきました。なるほど10ccらしいですね、という感想をもってしまいます。

 そんなわけで、結局このアルバムは四人組オリジナル10cc最後のアルバムになりました。以降、ポップ組の二人が10ccの名を引き継ぎ、音響組の二人はゴドレイ&クレームとして活動していくことになります。いずれも10ccのエッセンスを煮詰めたような活動です。

 本作は、バーで飲んでいるのが♪マリッジ・オン・ザ・ロックス♪だとか、ドラマを感じる歌詞をこれでもかとつぎ込んで♪電話を切らないで...♪と懇願するにもかかわらず切られてしまうところで終わります。最後まで実に英国的な、あまりに英国的なバンドでした。

*2012年2月27日の記事を書き直しました。

How Dare You! / 10cc (1975 Mercury)



Songs:
01. How Dare You
02. Lazy Ways
03. I Wanna Rule The World 世界征服
04. I'm Mandy Fly Me
05. Iceberg 氷山
06. Art For Arts Sake 芸術こそ我が命
07. Rock 'N' Roll Lullaby
08. Head Room
09. Don't Hang Up 電話を切らないで
(bonus)
10. Get It While You Can

Personnel:
Graham Gouldman : bass, rizo-rizo, guitar, percussion, vocal
Eric Stewart : guitar, bass, piano, vocal
Lol Crème : guitar, organ, clavinet, moog, vibes, recorder, gizmo, percussion, vocal
Kevin Godley : drums, percussion, vocal