あれも聴きたいこれも聴きたい-Tashi 今、「カラマーゾフの兄弟」を読んでいるからなおのことそう思うのかもしれませんが、経典の民が神を語る時の重厚な論理と息苦しいまでの真摯さには畏怖を覚えます。

 何ゆうてんねん、と突っ込みたい気持ちも湧いてきますが、不謹慎の誹りをまぬかれそうにないので、禅的に呵呵大笑してみたりしてバランスをとるしかありません。やはり、神様を信じている人たちのことは、最後まで理解できないところが残ります。

 オリヴィエ・メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」は、メシアンが第二次大戦でドイツ軍の捕虜となった時に収容所で作られた曲です。ヨハネ黙示録第10章に霊感を得て作曲されました。8つある楽章ごとに作曲者自身のカトリック的な解説が詳しく書かれています。

 メシアンは鳥の鳴き声に基づく作品などで名高いですが、初期の頃はとことんカトリック神秘主義に深く根ざした作風だったんですね。ご自身の解説を読んでいると、経典の民の恐ろしさを感じます。

 しかし、この作品は素直に楽しめました。四人組タッシの演奏はとても美しいです。タッシとはチベット語で幸福という意味です。ピアノのピーター・ゼルキンを中心に1973年に結成されました。編成はピアノ、チェロ、クラリネット、バイオリンです。まさにこの曲を演奏するために集まったのがきっかけだそうです。世の終わりのために集まった4人組の名前が幸福というのも面白いものです。

 現代の作家の作品だけに、リズムやメロディーがポピュラー音楽で育った私にもなじみ深いです。たとえば、この作品の第5楽章「イエズスの永遠性に対する頌歌」の遅いチェロを聴いていると、アイスランドのシガー・ロスが思い浮かびました。リズムの感覚がよく似ている気がします。

 タッシは、気鋭の若者が集まったグループで、クラシック界では高い評価を得ます。今でも名前は残っているようですが、オリジナルのタッシは78年ごろまでしか続きません。77年にメンバー同士が一組結婚したのが関係あるのでしょうか。クラシックには下世話な話題は似合わないので、よく分かりませんが、彼らも若かったわけですからね。

 ここでの演奏は若さにあふれたそれはそれは美しいものです。収容所で初演された時には、ひどい楽器しかなかったそうですが、聴衆の集中と理解はすさまじかったとのことです。おそらく、そのエピソードに対抗したのでしょう。がんばりました。私も集中して聴きましたよ。

 8楽章の中では、極端に遅いチェロのフレーズが素晴らしい第5楽章や、ヴァイオリンで第5楽章とバランスする「イエズスの不死性に対する頌歌」やクラリネット・ソロの「鳥たちの深淵」が好きです。どれもこれもゆったりしたリズムの曲です。タメがいいですね。

Tashi plays Messiaen Quartet for the End of Time (1976)