あれも聴きたいこれも聴きたい-RickDerringer
 デリンジャーと言えば、手のひらサイズの拳銃のことです。もちろん本名ではなくて芸名になります。強面なのかそうでないのか、微妙な名前ですが、この頃のリック自身はアイドル的な容姿でしたから、ちょっと箔をつけようと芸名をつけたのではないかと思われます。

 このジャケ写からはよく分かりませんが、内ジャケの写真などはベイ・シティー・ローラーズのパット・マグリンを思わせる正統派アイドルぶりです。写真でしか見たことがなかった当時の私などはその軟弱な感じがあまり好きではありませんでした。

 しかし、彼はギタリストとしては、あの音にうるさいスティーリー・ダンからも呼ばれるほどの腕前ですし、プロデューサーとしても、アル・ヤンコビックの「今夜はイート・イット」が代表作というわけではありませんが、なかなかに実力のある人です。

 要するに容姿と腕前にギャップがあります。ビデオを見ると、写真をみているような軟弱な感じは全くありませんが、フォトジェニックすぎます。それに器用貧乏な気もします。そこそこヒット曲もあるものの、音楽の質の高さを考えるともう少し売れてもよかった気がします。

 この作品には彼の代表曲「ロックン・ロール・フーチークー」が収められています。もともとは100万ドルのギタリスト、ブルース命のジョニー・ウィンターのために書かれた曲です。ジョニーはこの曲をかなり気に入って、ステージの定番になりました。

 ジョニーによりロックの要素を持ち込もうという意図のもとに書かれていて、題名は「ロックン・ロール」とブルースらしい言葉「フーチークー」を足したものになっています。全米23位とヒットしましたが、本人は陳腐な題名だし、これほど売れるとは思わなかったと語っています。

 なかなかどうして、かっこいい曲で、ギター小僧必聴の曲となっています。私も好きです。ジョニー・ウィンター・アンド、そのライブ、弟のエドガー・ウィンター&ホワイト・トラッシュのライブとすでに3回もレコーディングされているだけのことはある名曲です。

 アルバムは、正統派アメリカン・ポップ・ロックです。バラード系、ラテン系、ハード・ロック系となかなかにバラエティに富んでいますし、サウンドもほどよく練られています。素敵な楽しいアルバムです。ジャケットの何とも脳天気な楽しい感じがサウンドにそのまま出ています。

 ギタリストのアルバムだからと言って、ギター一色に染まっているわけでもなく、エドガー・ウィンターのキーボードも活躍しますし、ストリングスも効果的に使われます。リックのボーカルもチンピラ感があってなかなかカッコよく決まっています。

 パティ・スミスが詞を提供した「ホールド・オン」の熱唱はなかなか素敵です。ちょっとベタな感じもするのですが、そこがいいです。パティとの共作はマネージャーの差し金だそうです。友人同士なら何か一緒に書いたらどうかと。マネージャーはいい仕事をしました。

 この頃の屈託のないアメリカン・ロックは清々しいです。プロデューサー&ギタリストの作品となると小難しくなりそうですが、そんなことは微塵もありません。ギター小僧リック・デリンジャーの100%楽しいアルバムです。すかっと青空が広がります。カッコいい。

Edited on 2018/10/28

All American Boy / Rick Derringer (1973 Epic)