あれも聴きたいこれも聴きたい-AliceCooper10 昔、NHKの連続テレビ小説で、長嶋一茂が「お前みたいに恵まれた家庭に育った女に俺の気持ちがわかるか!」と言い放つ場面がありました。関西方面では視聴者が一斉に「お前がゆうか」と突っ込みを入れたために地響きがしたといわれています。

 フランク・シナトラがアリス・クーパーの「ユー・アンド・ミー」をカバーしたと聞いたとき、同じ心持を味わいました。だって、「僕たちは映画スターじゃない」「ベッドと少しの愛とテレビをシェアするだけ。働く男にはそれで充分なんだ」っていう歌ですよ。お前がいうかと。

 誤解を避けるために申し上げますが、金持ちの俳優が貧乏人を演じることはできないなどということを言うつもりはありません。「演じること」を職業にしている役者さんならいいんですが、長嶋一茂の職業は「スーパースターの息子」ですし、我々の世代以降の人にとって、フランク・シナトラの職業は「映画スターであること」ですから。

 アリス・クーパーのこの作品からは「スクールズ・アウト」に続くベスト10ヒットが生まれました。それが「ユー・アンド・ミー」なんです。全く対称的な二曲です。この間のアリス・クーパーの道のりをしみじみと思わせます。

 この作品はアリスのソロ3作目です。前二作がコンセプト・アルバムの形式をとって、まとまりを演出していたのに対し、このアルバムは、ハードボイルドにまとめようとはしているものの、とっ散らかった作品集になっています。実際、作曲家チームの一人、ディック・ワーグナーが「焦点が絞り切れず、やりたい放題でバラエティに富みすぎてまとめるのに苦しんだ」と言っています。

 多分にアルコール依存症とも関係があるのでしょう。この頃のアリス・クーパーは、重度のアルコール依存症にかかっていました。このアルバムのスタッフ・クレジットには「アルコール・アドバイザー」の名前も記されています。ジャケットに出てくるウィスキーの選定にあたった人とも読めますが、おそらくはカウンセラーでしょう。

 酒を飲みすぎると自虐的かつ感傷的になります。その結晶が「ユー・アンド・ミー」でしょう。今の草食系日本人にもぴったりくる歌詞です。さらに続く「銀幕の王者」では、夢の中でスーパースターになります。ものすごい庶民ぶり。それをさらりと演じてしまうところがアリスの強み。

 テレビの似合うお茶の間のアイドルです。同系統だと思われているマリリン・マンソンとは実は全く違います。

 ほかの曲もバラエティーに富んだ作品ぞろいですが、時にアル中三部作の最初の作品と言われ、すっかりアルコールの抜けた後年のアリスからも酷評されます。確かに、ソロ作としてのアルバム全体の完成度は前二作に譲りますが、ここにはアルコールによって喜怒哀楽の増幅されたアリスの素顔が描かれています。

 「ユー・アンド・ミー」は本当にいい曲ですし、実は私はこの作品が「マッスル・オブ・ラブ」に次いで大好きなんです。

Lace And Whiskey / Alice Cooper (1977)