あれも聴きたいこれも聴きたい-AliceCooper09 アリス・クーパーは今度は地獄へ行くことになりました。「悪夢へようこそ」の続き物の体裁をとっていて、前作でも登場したスティーブン君のベッド・サイド・ストーリーとなっています。

 もうこれは真正ミュージカルです。ちょこちょこっと脚本を書き足せば、そのまま舞台にかけることができそうな作品です。

 ロック・ミュージカルといえば、71年に「ジーザス・クライスト・スーパースター」、そしてきっとアリスの影響を受けていると推測される「ロッキー・ホラー・ショー」の舞台が73年です。ここらあたりは影響のキャッチボールだったんじゃないかと思われます。確証はありませんが。

 しかし、当時は日本ではまだまだミュージカルとロックは縁遠い存在だったと思います。まあこれは私が文化果てる田舎に住んでいた中高生だったからかもしれませんが、ウィキペディアによれば劇団四季のメジャーへの転機となったのは79年の「コーラスライン」からだそうですから、あながち間違いではなさそうです。

 何が言いたいかと申しますと、当時の日本にはアリス・クーパーのこうした作品をミュージカルとして楽しむ土壌がなかったということです。ショック・ロックと呼ばれたハード・ロックなアリス・クーパーのイメージとは違うなと思った時に、彼の作品を消化する酵素は日本の胃袋には存在しなかったということです。

 この作品は、前作同様、アリスとプロデューサーのボブ・エズリン、ギターのディック・ワグナーが中心になった作品で、よりタイトな楽曲が並んでいます。そして、分かりやすい歌詞と、さらりと劇的なアレンジが施されています。芸が細かいですし、ハードロックもありますが、ボードヴィル調やらなんやらで、まるでめくるめく舞台を見ているような気になってきます。

 特に後半はストリングスも多用していますし、曲もつながっていて、構成で聴かせる形になっています。「虹を追いつづけて」では「オーバー・ザ・レインボウ」が顔を出したりしますよ。なかなかに力作です。私は前作より好きですね。

 さらにビデオを見ていただくとお分かりになる通り、前作の「血を流す女」の好評に気をよくしたアリスが今作では渾身のバラード「俺は泣かない」で、コテコテの歌手として立ち現われてきました。当時、アル中で大変なことになっていたそうですが、この曲は「アルコール懺悔」の歌となっています。演歌のようです。

 この作品は結構ヒットもして、「俺は泣かない」はシングルで12位、アルバムは27位と健闘しました。しかし、続くツアーは貧血のため全部キャンセルの憂き目を見てしまい、アル中三部作時代へと突入していくことになりました。酒は怖いですね。

Goes To Hell / Alice Cooper (1976)