あれも聴きたいこれも聴きたい-NYUnit 変な話で申し訳ありませんが、初めて早坂紗知さんの演奏を見たときに、「あれ、サックスって吸う楽器?」と思ってしまいました。吸ってるように見えるんですよ。ええ。不思議ですよね。

 ニュー・ヨーク・ユニットは、その早坂さんとその連れ合いの永田利樹(B)、バイオリンの定村史朗、ドラムスにフェローン・アクラフのカルテットです。このアルバムは2009年にニューヨークを訪れた二人がライブハウスで録ったライブ音源からなります。一曲だけ違いますが。

 永田利樹は初めてニューヨークを訪れたのが1982年、大学卒業の直前だと言いますから、私と同級生です。いらない情報でしたか。それから7年後、今度は新妻早坂を伴ってニューヨークを訪れ、レコーディングなどを行います。それから4年続けてニューヨークを訪問した彼らは、そこでさまざまな刺激を受けて成長、今回久しぶりに訪れたニューヨークでその物語にケリをつけた。解説を読むとそんな感じです。

 ニューヨークはやはりジャズの人にとっては格別なんですね。クラシックだとウィーンやパリ、ロックだとロンドンでしょうか。レゲエだとキングストン、アフロ・ビートだとラゴス、インド映画音楽だとムンバイ...。

 さて、このアルバムです。早坂紗知は永田とともに「ワールド・ミュージックへの挨拶状」とも言える共同作業によるプロジェクトMINGAをやっている一方、永田利樹はフリー・ジャズとダブの融合を目指したバンドMAUを並行して走らせています。ということで、このアルバムの音はダブやワールド・ミュージック的な匂いがします。

 実際、曲名にも「ダカール・トリップ」だとか、「イグアス・ワルツ」とセネガルやアルゼンチンが出てきますし、さらに「白夜」という曲はブルガリアン・トラッドからの楽曲となっています。「ベース・スネーク」なんて題名はダブそのものですしね。

 フェローン・アクラフの叩き出す力強く乾いた感じのビートとメロディアスな永田のベースに乗って、定村のバイオリンが縦横無尽に駆け巡り、さらに早坂がサックスを自由自在に吸いまくる、いや吹きまくる。あっ、これでは何の説明にもなっていませんね。

 何だといわれるとジャズなんでしょうが、どこかロックっぽいというか、フュージョンっぽいというか、ワールド・ミュージックっぽいというか、ちょっと下世話なところも魅力的です。泣いたり、笑ったり、喜怒哀楽がはっきりした音楽と言えばいいでしょうか。

 早坂紗知は「日本人初女性サックス奏者」とされていて、世界を股にかけて活躍しています。今では女性サックス奏者も珍しくありませんが、彼女が先駆者なんですね。いろんなジャンルの方と活動をともにしていて、(故)原田芳雄、おおたか静流、カルメン・マキ、山下洋輔、長谷川きよしなどという名前が挙がっています。

 彼女があまり有名でないのはおかしいと思います。かっこいいですよ。

East Village Tales / N.Y.Unit (2010)