あれも聴きたいこれも聴きたい-ThinLizzy 「アイルランドの英雄」と呼ばれるシン・リジィを前に、こんなことを言うのも何ですが、この人たちもどこかチンピラ感の漂う人たちです。そんなところがとても愛おしいと思っています。

 シン・リジィはアイルランドのバンドです。アイルランド最大のバンドはU2でしょうが、そういう一般的な物言いには、必ず反抗する人が出てきます。彼らが真っ先に挙げるのはこのシン・リジィです。カッコいいですからね。

 シン・リジィの事実上のリーダーはフィル・リノットというブラジル系アイルランド人です。そういうわけですから、彼の佇まいはアイルランドのバンドと聴いて思い浮かべるところと随分違います。しかし、アイルランド民謡を題材にした曲作りが得意だったりするので、音はU2よりもよほどアイルランド的です。

 彼らの最高傑作は意見が分かれるところですが、このアルバムも一つの候補となる作品です。彼らは比較的メンバー・チェンジが多いのですが、この作品は唯一、伝説となってしまったギタリスト、ゲイリー・ムーアが全面的に参加したアルバムです。ゲイリー色が強いですかね。速弾きギターが冴えています。

 ゲイリーは前からこのバンドとは仲がよかったようですが、品行方正な人だけに、バンドの酒とドラッグ浸りが許せず、このアルバムの後、早々に脱退してしまいます。そんなバンドなんですね。

 彼らはご機嫌でポップなハード・ロック・バンドです。キャッチーなリフ、ツイン・リード・ギターのバトル、ファンキーな野太いベース、男っぽいボーカルがぴたりと決まると、とてもカッコいいです。それでいて、どこかチンピラ感があるんですよね。そこがいいです。

 このアルバムの白眉は、タイトル曲です。アイルランドの詩人の書いた詩に触発された曲で、アイルランドの神話上の英雄クー・フリンや、現実の英雄、ジェームズ・ジョイス、バーナード・ショー、オスカー・ワイルド、ヴァン・モリソンなどが歌いこまれています。さらにインスト部分ではアイルランド民謡のフレーズが編みこまれます。アイルランド代表の面目躍如たるものがあります。

 そんな気高いところもあるのですが、「S&M」なんていう曲があったりしますし、邦題が「ヤツらはデンジャラス!!」なんていう曲もあります。後者は原題が「ドゥー・エニシング・ユー・ウォント」ですよ。こういう邦題がつくような扱いだったということですね。面白いです。

 久しぶりにシン・リジィを聴いてみて、胸が熱くなりました。ロックはこうでなくてはいけません。

Black Rose A Rock Legend / Thin Lizzy (1979)