あれも聴きたいこれも聴きたい-ほぶらきん 滋賀県のことはご存知だと思いますが、琵琶湖の面積が県の面積のわずか6分の1だということをご存知でしたか?9割が琵琶湖だなんて思ってることを口にすると、滋賀県人に張り倒されますよ。

 ほぶらきんは「滋賀県の奇蹟」と称えられる関西アンダーグラウンドの究極兵器です。彼らは80年ごろ、関西のインディーズ・シーンにアホ花を咲かせました。そう究極のインディーズです。最初の二枚のシングルは「マイ・レコード」から。「マイ・レコード」とは西武百貨店大津店にあった誰でも50枚プレスしてくれるテナント・レーベルです。

 私が持っていたのは、「キング・ホブラ」からの抜粋をソノシートにしたロック・マガジンの付録と、「インドの虎狩り」の2枚だけでしたが、何度も何度も繰り返し聴いたものです。こんな復刻盤が出るとは、この上ない幸せです。

 彼らの音楽を聴くと、「冗談にもほどがある」と怒り出す人もいるかもしれません。究極のDIY音楽といいますか、とても楽器がまともに演奏できるとは思えない人たちが、わーわー唄う、とてつもないインパクトのあるヘタウマならぬヘタヘタ音楽です。中にはメンバーの弟、小学生のとしき君が歌っている曲もあります。

 歌詞もナンセンスの極みですが、コミック・バンドではありません。笑いをとろうとしているバンドでないことはよく分かります。JOJO広重さんが解説を書いていますが、むしろ、このバンドの音はボアダムズ一味に自然に連なっていきます。

 世間とは一線を画したような軽みの感覚とでも言えばいいんでしょうか。突破力のあるボーカルと、下手ゆえに意表を突いた出方をする演奏が、とてつもないアナーキーを連れてきます。JOJOさんは彼らを天才と評し、この作品を「天才の計算と皮肉と反抗と狂気が生み出した珠玉の数十曲」としています。私には全く異論はありません。

 中でも、今に至るも「キング・ホブラ」の一曲「魚うり」は私の人生応援歌です。「昨日も今日も魚うりうりよ。あけてもくれても魚うりうりよ。明日も明後日も魚うりうりよ。来る日も来る日も魚うりうりよ。ああ、うりうりうりうりゃよ」。今でも職場で口ずさむことがあります。そのほかにも「京阪牛乳」「わらびもち」「まらだしガンマン危機一髪」「ゴースン」「ゴースンゴー」「ますかきラッキー」「俺はなんでも食う男」と、名曲がてんこもりになっています。

 このバンドは、とても日本的です。唱歌のような歌がありますし、テイストは昭和30年代の忍者映画のような感じでもあります。ただ、それだけではなくて、私には何か「禅ブッディズム」を想起させる気がしてなりません。歌詞は禅問答のようですし、音の隙間からただよってくる佇まいは山奥の禅寺で飄々と生活する禅僧のようです。世間を突き抜けた破れ紙の魅力とでも言うんでしょうか。心が洗われます。

 ただ、後期の大作「ゴースンの一生」はちょっとやりすぎですかね。身長10キロメートルの巨大忍者の面白いお話なんですが、彼らにはコンセプト・アルバムのまだるっこしさは似合いません。

 まあそんなことはさておき、ユーチューブにも彼らの東京殴り込みツアーの映像がありました。素晴らしい時代になったものです。

ほぶらきん / ほぶらきん (1991)
(「こっぷらきん(1979)」「キングホブラ(1980)」「インドの虎狩り(1981)」「ゴースンの一生(1984)」