あれも聴きたいこれも聴きたい-AliceCooper06 今回のジャケットは蛇皮製の財布を模したものになっています。そして中には10億ドル札が入っています。10億ドルですよ。発売当時のレートで換算すると3080億円です。ものすごい大金です。当時の大卒初任給は190ドルちょっとですからね。今のレートで換算すると1万5千円。時代は変わるものです。

 与太話はさておき、このアルバムはアリス・クーパーの絶頂を記録したアルバムとなりました。英米で1位を獲得し、アルバム発表後のツアーではボックス・オフィス記録を塗り替えました。前作で大スターになった彼らが、自分たちがスターになったことが不思議でならず、そんな気持ちをこめたタイトルにしたら、さらに大ヒットしたということになりました。

 この作品は、「ブロードウェイ・ミュージカルの形をとっている」とプロデューサーのボブ・エズリンが語っているように、ますますミュージカルっぽくなってきました。しかし、前作ではウェスト・サイド物語を使うなど、既成のミュージカルにおもねった中途半端な様相でありました。

 今回も007が出てくることは出てくるのですが、全体にストーリーがあるわけでもないのに、一つの完結したロック・ミュージカルとしてまとまりがあります。自信にあふれています。要するに、ここに一つの完成を見たわけですね。楽曲も一曲一曲がとてもタイトにまとまっています。トータルで素晴らしいアルバムになりました。

 歌詞の世界は、死姦を歌ったり、ホラーだったり、強姦だったりとおどろおどろしいですが、中には歯医者に行くことを歌った歌もあります。シングル・ヒットした「アリスは大統領」は、大統領になる歌です。ちなみに、この曲のビデオはロック界初のプロモーション・ビデオだと言われています。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」より早い。

 そんな歌詞ですから、当時、アメリカ国内で物議をかもしたと言われていますが、意外にこの人はテレビによく出演したりしていて、マリリン・マンソンのように本気で忌避されたりはしていないようです。キャラクターもありますし、何よりもミュージカル、お芝居だという了解が世間にあったのではないかと思います。愛すべきはみ出し者なんですね。

 さて、スターですから、今回は豪華ゲストということで、ドノヴァン、ニルソン、マーク・ボラン、キース・ムーンなどが参加していると書いてあります。しかし、ドノヴァンはタイトル曲で歌っているのでわかりますが、それ以外の人はどこに参加しているんでしょう?よく分かりません。

 それよりも、ギターが気になります。前作からミュージカル仕立てになってバンド・サウンドが後退した印象がありましたが、今作ではギターがバリバリ活躍しています。以前の作品とも違います。どうしたのかと思っていたら、リード・ギターのグレン・バクストンがヤク中ということで、ルー・リードのライブでおなじみのディック・ワーグナーとスティーブ・ハンターが助っ人で参加しているんですね。バンドにはやはり危機が近づいています。

 まあそんな心配を今さらしていてもしょうがないので、虚心坦懐に耳を傾けてください。まさにブロードウェイのロック・ミュージカルとして楽しめる作品だと思います。

Billion Dollar Babies / Alice Cooper (1973)

ロック界初のプロモーション・ビデオです。