あれも聴きたいこれも聴きたい-NoNewYork 少し前のことですが、「ノー・ウェイブ・シンドローム」なんていう本も出版されたり、ジェームズ・チャンスが来日したりと、この作品を巡る状況が喧しかった時期があります。一言解説しますと、ノー・ウェイブはこの作品の一連のバンドを中心とする音楽のこと、ジェームズはこの作品のスターです。

 ライナーノーツでも、超ド級の「歴史的名盤」であり「幻の名盤」扱いされています。しかし、発売当時は普通に輸入盤屋さんに売っていましたし、入手しづらかったわけではありません。雑誌の扱いもロック・マガジン以外では特に大きく取り上げられていたわけではありませんでした。何だかなあ、と天の邪鬼な感想を持ちますね。

 欧米でも当時は冷淡な扱いだったようで、当時のローリング・ストーンのレビューなどを見ると、酷評されているのが分かります。今でもそれほど大きな扱いをされていないようです。だから欧米はだめだと言う人もいますが、それはどうでしょうね。

 本作品は、ブライアン・イーノがプロデュースしたニューヨークのアンダーグラウンドの4バンドのオムニバス盤です。イーノは何もせず、ただただ音を素直に切り取ったというのが定説です。当時のシーンをそのまま冷凍保存したようなものですね。バンドの面々は今も活躍するジェームズ・チャンスのコントーションズ、フィストなんちゃらの女王リディア・ランチのティーネージ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークス、いかにもアート学生っぽいマース、後に大活躍するアート・リンゼイのDNAと、さすがに後日談が豊富なバンドが揃っています。

 アマゾンのレビューに「当時聴いた人がどれほどの衝撃を受けたか」と書いてありました。私も当時聴いた人間の一人として、衝撃を受けたかと尋ねられれば、いや素直に衝撃を受けたと言わせてもらいます。ただし、この4バンドはばらつきが大きいです。

 その衝撃はひとえにコントーションズから受けたものだといえます。アルバム冒頭から4曲目まで高速リズムにのせて疾走するジェームズ・チャンスのサックスとボーカルはそれはそれは素晴らしい。突破力は半端じゃありません。パンクといってもたいていのバンドはポップでしたし、縦ゆれリズムも躍動感に欠けていた中で、このコントーションズは傑出していました。ささくれだった体のリズムにぴったりとシンクロしたものでした。余談ですが、この後、ここでカバーされているジェームズ・ブラウンを聴くようになりました。

 あとはDNAのギターも好きでしたね。しかし、衝撃というのとはちょっと違います。DNAは歌詞も好きでした。「あなたがこっちに行く時、私はあっちに行く。私たちはどこへいくの?私たちは動いていない」。いい感じですね。

 他の二つのバンドはどうでしょう。マースはちょっと聴いたが、リディア・ランチの方はあまり聴かなかった。それほど面白くないのだ。本当にギター素人なんですね。同じ素人の私にも分かります。

 全体を貫く主張がありそうですが、少なくとも当時の私には分かりませんでした。今でもよく分かりません。ただ、当時も今も「ジェームズ・チャンスはすごい」ということはよく分かります。その活動を記録したというだけで、本作品の価値があるのだと思います。

No New York / Contortions, Teenage Jesus & the Jerks, Mars, DNA (1978)