これまでもスティクスのアルバムはうっすらとコンセプト・アルバムとなっていましたが、本作品ではシカゴに実在した劇場であるパラダイス・シアターの栄枯盛衰をとりあげ、なおかつテーマとなる一つのメロディーを随所に使うなど、コンセプト・アルバム度が深まりました。
冒頭の曲はシアターがオープンした年である「１９２８年」、最後の一つ前の曲は「１９５８年」、シアターがクローズした年です。この２曲とシングル・ヒットした「ザ・ベスト・オブ・タイムズ」がテーマとなるメロディーを共有しています。いかにもコンセプト・アルバムですね。
とはいえ、形はトータル・アルバムであっても、ピート・タウンゼントが仕切るザ・フーなどとは異なり、３人ものメインとなるソング・ライターがいるスティクスには純然たるコンセプト・アルバムは難しいです。本作品もすべての楽曲が物語を構成するわけでもありません。
また、サウンドもプログレに回帰したわけではなく、前作同様にポップな作風がさらに進みました。しかし、大仰な物語が表に立てられていることは確かですから、この頃の彼らのようなサウンドを指して「ポンプ・ロック」、大げさなロックという言葉が生まれました。
プログレを指向すれば酷評され、ポップになればなったで大げさだと言われる。スティクスは評論家受けはとにかくよくありませんでした。かわいそうといえばかわいそうなんですが、これだけ売れれば問題ないでしょう。大きなお世話だと開き直っていればよいところです。
日本はどちらかというとプログレ的な側面を愛でていた気がします。本作品の帯には「プログレから出発し、徐々に大衆化したスティクスの最高傑作」との文言が入れられており、ちょっと淋しそうな空気が醸し出されています。よりによって「大衆化」とは。
本作品からは「ザ・ベスト・オブ・タイムズ」が全米３位の大ヒットを記録しました。「ベイブ」に続いてデニス・デヤングの曲です。鶏をひねったようなコーラス・ワークと冗談のようなぺらぺらなリズムですけれども、私はそれを目前においてもなお、この曲が好きです。
もう一曲、「時は流れて」も全米９位とトップ１０ヒットとなっています。このニュー・ウェイヴ調の楽曲はトミー・ショウの曲です。ショウの曲はこの曲と「愛こそすべて」の２曲のみです。ジェームズ・ヤングの曲も２曲のみで、コンセプトが強くなるとデヤングの曲が増えてきます。
ヤングの曲は後半の２曲「白い悪魔」と「ハーフ・ペニー、トゥー・ペニー」で、前者は悪魔的だとレッテルを貼られたヘヴィな曲で、デヤングとの共作。後者も勢いのあるロックですが、テーマ・メロディーも織り込まれており、デヤングに浸食されつつあります。
ポップなスティクスの到達点ともいえる作品でメンバーも手ごたえを感じていたのでしょう。初版ＬＰにはレーザー・エッチング加工を施すなど作りも豪華になっています。「大いなる幻影」から始まったスティクス黄金期が爛熟する一歩手前というポンプな感じが素敵です。
Paradise Theater / Styx (1981 A&M)
*2012年1月3日の記事を書き直しました。
Tracks:
01. A.D.1928
02. Rockin' The Paradise
03. Too Much Time On My Hands 時は流れて
04. Nothing Ever Goes As Planned 砂上のパラダイス
05. The Best Of Times
06. Lonely People
07. She Cares 愛こそすべて
08. Snowblind 白い悪魔
09. Half-Penny, Two-Penny
10. A.D.1958
11. State Street Sadie
Personnel:
Dennis De Young : keyboard, vocal
John Panozzo : percussion, vocal
Chuck Panozzo : bass, vocal
Tommy Shaw : guitar, mandolin, autoharp, vocal
James Young : guitar, guitar synthesizer, autoharp, vocal
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Steve Eisen : sax
Dan Barber, Mike Halpin, John Haynor, Mark Ohlson, Billy Simpson : horn