あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa07
 ベスト・アルバムが間に入る関係でフランク・ザッパ先生のオフィシャル・リリース第8弾となる「ホット・ラッツ」です。一言で言えば傑作です。これはもう大傑作です。英国ではベスト10入りし、メロディー・メイカー誌は本作品を年間ベスト・アルバムに選びました。

 それも1969年の発表です。同年にはビートルズの「アビー・ロード」やキング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」などのロック史を決定づけた名作が目白押しでした。それらを押さえての年間1位。しかもこの評価に納得する人も多い。大傑作ですから。

 当時、ザッパ先生のマザーズは音楽が複雑になるにつれてメンバーの演奏能力が追いつかないという問題を抱えます。加えて、1968年、69年とツアーに明け暮れて、精神的にも肉体的にも限界を感じた先生は一旦マザーズを解散しました。

 このアルバムはそんな事情の中で制作されたものですから、当然、先生のソロ名義となっています。先生が相棒に選んだのはマザーズのイアン・アンダーウッドです。1969年7月から8月にかけて録音され、10月には発売されました。驚くべき速さです。

 ボーカル曲が1曲ある他は全てインストゥルメンタルです。そのためか、あるいはジャン・リュック・ポンティなどのジャズ・ミュージシャンが参加しているからか、ジャズ・ロックの傑作とも呼ばれます。しかし、正直、そこまでジャズ的な感じはしません。

 一方で、ブルースの巨匠ジョニー・オーティスの息子で当時まだ15歳だったシュギーなどのブルースメンが参加しているからか、ブルースだと言う人もいます。確かにキャプテン・ビーフハートの歌う「ウィリー・ザ・ピンプ」のどす黒さはブルースっぽくもあります。

 先生本人は「6篇のエレクトリック・コンチェルト」だと発言しています。ロック室内楽、クラシック的な構成にロック魂を乗せたというか、ロックにクラシックの縁取りを施したというか、そういう傑作だと言えます。さらに先生は「耳のための映画」だともおっしゃっています。

 この作品ではアンダーウッドのピアノやサックス、フルートなどが八面六臂の大活躍をしています。もともと彼はエール大学の音楽学士でありバークリーの作曲科修士です。なるほど演奏力も高いわけで、ザッパ先生の構想にがっぷり四つに組み合っています。

 先生の代表曲の一つとなった一曲目の「ピーチズ・エン・レガリア」は冒頭のドラム・ロールだけで耳が全開になります。この名曲に続くのは、キャプテンの恐ろしいまでのボーカルといつ果てるとも知れない先生のギター・ソロが凄まじい「ウィリー・ザ・ピンプ」。

 前作の続きとなる「サン・オブ・ミスター・グリーン・ジーンズ」でA面が終わると、イアンの美しいピアノを全面的にフィーチャーした「リトル・アンブレラ」、イアンのサックスが冴える長尺の「ガンボ・バリエーションズ」、そしてジャジーなムードの「イット・マスト・ビー・ア・キャメル」。

 全曲が大傑作です。とにかく隙がない。それにロック室内楽ですから、すでにクラシックといっていい。要するに時代を越えています。先生の作品を聴いてみようと思う人にはその入り口としてお勧めです。先生の猥雑と端正が同居した音楽に魅了されること請け合いです。

Hot Rats / Frank Zappa (1969 Bizarre) #008

*2011年12月19日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Peaches En Regalia
02. Willie The Pimp
03. Son Of Mr. Green Genes
04. Little Umbrellas
05. The Gumbo Variations
06. It Must Be A Camel

Personnel:
Frank Zappa: Guitar, Octave Bass, Percussion
***
Ian Underwood: Piano, Organus Maximus, All Clarinets, All Saxes
Captain Beefheart : vocal
Sugar Cane Harris : violin
Jean Luc Ponty : violin
John Guerin :drums
Paul Humphrey : drums
Ron Selico : drums
Max Bennett : bass
Shuggy Otis : bass