あれも聴きたいこれも聴きたい-Enka80 以前に70年代ベストをご紹介しましたが、その余勢をかって80年代も買ってしまいました。晴れ渡った日曜の午後に家で演歌のCDを聴くというのも変なものです。少し後悔しました。でも頑張って聴きとおしました。

 70年代に比べると、面白いことに演歌度が増しています。演歌は日本人古来の心を歌ったものだと言われます。そうだとすれば、時代を遡るほどに演歌度が増すはずなのですが、事実は逆です。最近、耳にする新しい演歌はさらに演歌度を増していますから、そのベクトルは続いているのでしょう。昔は演歌なんていうジャンルはなかったんですよ、若い皆さん。

 これは何も演歌に限ったことではなく、ブルースやらカントリーなどもそうです。折衷から生まれた大衆音楽が純化の方向に走って行くのですね。そう考えると、演歌に歌われる日本人像は、後世の発明になるとも言えるのかもしれません。たとえば戦争を熱心に語る人に戦後生まれの人が多いのと同じことでしょう。

 さらにここでは作曲者に大物先生が少なくなりました。歌手も、シンガー・ソング・ライターの竜鉄也を始めとして、大川栄策、村木賢吉ほか、多くは収録された曲一曲だけで歌手人生を生きているような人です。作曲家もそうなんですね。そういう人はより純化された演歌を作り出し、歌い上げる傾向が強いです。70年代盤でもぴんからトリオや殿さまキングスがそうでした。

 一方で、大物作曲家も紅顔の美少年、作曲の市川昭介先生など昔よりもド演歌を作っています。五木ひろしや都はるみも昔よりずっと演歌になっているのです。面白いものです。

 演奏に耳を傾けてみますと、村木賢吉など売れると思っていなかった曲の演奏などはシンプルを絵に描いたようなものです。それはそれでよいのですが、全般に伴奏まで演歌度を増してきていて、決まり切った形が続いて面白くありません。

 今回のCDで、耳に残ったのは、「雪國」の妙なベースラインとディストーション・ギター、「人生いろいろ」のジャストなリズムとふわふわしたアレンジくらいでしょうか。「人生いろいろ」はニュー・ウェーブからストーン・ローゼズあたりの感じですかね。

 肝心の歌ですが、やはりというか何と言いますか、テレサ・テンが群を抜いて断然素晴らしいです。この綺麗でいて芯の強い歌声は凄いです。「つぐない」はいい歌ですが、演歌特有の小さく内側にまとまりたがる傾向を持っていると思います。しかし、それをテレサの圧倒的な表現力が大きく外に向かって広げているような気がします。

 他にもさすがに大御所美空ひばりの歌もいいですね。まさかの一風堂見岳章にAKB秋元康コンビの楽曲です。これもまた演歌のパロディーのようですが、さすがに日本の歌姫がうまく締めています。

 ところで、このCDは80年代ベストですが、80年代前半の曲が大半を占めています。演歌の完成は80年代前半ということなのかもしれません。その後の歌で大ヒットというのはあまりないですからね。氷川きよしくらいでしょうか。純化しすぎると碌なことはないわけで、そういう意味ではマツケン・サンバ、マツケン・マハラジャは演歌に新しい命を吹き込む可能性を持っていそうです。

青春歌年鑑 演歌歌謡編 80年代ベスト (2004)

奥飛騨慕情/竜鉄也、さざんかの宿/大川栄策、大阪しぐれ/都はるみ、矢切の渡し/細川たかし、おやじの海/村木賢吉、別れても好きな人/ロス・インディオス&シルヴィア、みちのくひとり旅/山本譲二、娘よ/芦屋雁之助、氷雨/佳山明生、長良川艶歌/五木ひろし、ブランデーグラス/石原裕次郎、雨の慕情/八代亜紀、ラヴ・イズ・オーヴァー/欧陽菲菲、夢芝居/梅沢冨美男、つぐない/テレサ・テン、川の流れのように/美空ひばり、雪國/吉幾三、人生いろいろ/島倉千代子、兄弟船/鳥羽一郎



ある意味演歌のステレオ・タイプ。