あれも聴きたいこれも聴きたい-SakamotoShintaro ジャケットを見て、カリカの家城だと思った方。ぶーっ、間違いです。これは解散してしまったゆらゆら帝国の坂本慎太郎のソロ・アルバムです。しかし、どっちが有名か、とても微妙なところですね。

 明るいか暗いかの二項対立を軸に人を判断する風潮にはうんざりします。昔、タモリが流行らせた根暗というのは表面の明るさ暗さの奥を見るということで面白かったですが、いつしか、「今日は根暗だ」などとあり得ない言葉使いまでされるようになり、深層と表面の分離が許されないようなことになってしまいました。

 そうなりますと、坂本慎太郎のようないわゆる暗いと考えられている人がこういう明るいアルバムをつくると、毒が隠されているというような言い方をされることになります。特に今年は震災に無理に結び付けられてしまう。素直に受け取れないわけですね。

 でも、このアルバムの軽くて楽しい音づくりはそのまま受け止めたいと思います。彼の言葉によると、「仲のいい友達とか、思慮深い人たちが集まった酒場で、音楽がなってて、そういう人たちが軽くわあっと盛り上がってる感じ」とか、「ふだん騒いだりしない人が、いつもより気分がいいからお酒を飲んじゃって、ちょっと軽く踊ったりしてる感じ」です。

 見事な本人解説ですね。このアルバムはまさにそんな感じです。全編、シンプルな音で出来ています。これも本人解説ですが、「上手い人たちが集まって演奏してる感じじゃない音」「もっと脳の中で鳴ってる感じ」です。全面的に活躍するコンガの音が、軽くて楽しい感じを醸しだします。ボーカルの処理も軽い感じですね。

 歌詞は相変わらず上手いです。ポジティブなのかネガティブなのか、直截に心理描写をするわけでもなく、シンプルな言葉による情景描写が、曲全体の雰囲気の中で歌いだします。何とも素敵な詞になっています。あまり普段歌詞に聴き入ることはないのですが、彼の歌は詞を丁寧に打ち出してくるので、嫌でも聴き入ってしまいます。

 ゆらゆら帝国とは違う音楽です。何が違うのかと詰められると、だって違うじゃないですか、と言いかえすしかありません。違う音ではあるものの、ゆらゆら帝国の坂本だから、悪かろうはずはないと思って買ってみた私を裏切ることのない、素晴らしいアルバムでした。

 何度も繰り返し聴いていますが、ますます深みにはまっていきそうです。一部に70年代から80年代にはやったニュー・ミュージック的なニュアンスも含まれていますし、日本のロックの歴史をなぞったようなところもあって、そうした面からも楽しめます。このまま活躍してほしいものです。

How To Live With A Phantom / Shintaro Sakamoto (2011)