あれも聴きたいこれも聴きたい-U2
 発売20周年ということで、記念作品が発売されました。もともとCD1枚なのに、超デラックス盤はCD6枚にDVD4枚、凄いですね。桁が違います。U2は大成功した後もしっかりとその人気と評価を保っているところが他のバンドとは違います。

 U2の正史によれば、これはU2が、アイルランドのロック野郎時代、ルーツ音楽に傾倒していった時期を経て、大きく変容を遂げた歴史的なアルバムということになります。ドラクエ的に言いますと、やんちゃ小僧から求道者を経て、角をつけた悪魔に職業を変更したわけです。

 本作は、ヨーロッパに戻って、ベルリンの壁崩壊前夜のドイツでセッションが行われましたが、ヒップホップやインダストリアルなんぞに興味を持ちだした前衛の二人、ボノ、エッジ組と昔のロック墨守なリズム隊のラリーとアダムの対立は深まり、一時は解散も考えたそうです。

 しかし、そこは老獪なイーノが何とかとりもち、「ワン」の録音でわだかまりは一挙に氷解、場所を変えた録音は見事に進んでいきました。まるで「ジョシュア・トゥリー」に入っていてもおかしくない名曲ですが、ギターの音はやはり少し違います。これが最大公約数なんでしょう。

 サウンドは、ダンス・ビートへの接近、ディストーション処理の目立つオルタナ仕様になっているとして話題になりました。しかし、彼らがやることは何でも王道な感じになります。ですから、そんなに驚くようなサウンドが出てくるわけではありません。

 むしろ、こうした音楽も主流になってきたんだなあとしみじみと感慨にふけることができます。U2がオルタナ、ダンス仕様を身にまとうことによる主流化の予感。その意味ではロック史に与えた影響は大きいことでしょう。

 やっぱり彼らの音楽は正統派剛球ギター・ロックですよね。このアルバムでも、いろいろと実験的な取り組みをしているのは分かるのですが、いつものボノの歌声とエッジのギターにラリーとアダムのいつものリズム。大変、落ち着いたよく出来たアルバムです。

 なかなか名曲が並んでいます。いろんな人がカバーしていますが、私は、メアリー・J・ブライジの「ワン」よりも、オリジナルを越えたと思っているカサンドラ・ウィルソンの「恋は盲目」をお勧めします。多くの人にカバーされるということは曲の良さの証明でしょう。

 この作品は「ヨシュア・ツリー」の次に売れたU2のアルバムです。全米チャートでは初登場1位でしたし、グラミー賞もとりました。当初は評価も割れていたように記憶していますが、じわじわと人々の心に沁み入り、今では大傑作という人も多いようです。

 表面の実験面に殊更に焦点をあてると、割れた解釈になるのでしょう。でも、U2の音楽はデビュー当初から一貫してあまり変わっていないと思います。紙吹雪の色は変わっても、王道を堂々と歩いていることには変わりありません。

 ところで、今回は20周年盤ということですが、「必要ない」のでリマスターはされていないようです。本当に必要ないのか意見が分かれるところでしょう。ちょっともこもこしていますし、ドラムの音がチャカポコしています。20年前の録音の感じがします。

Edited on 2018/3/29

Achtung Baby / U2 (1991 Island)