あれも聴きたいこれも聴きたい-GodleyCreme2
 LP時代には大手輸入盤レコード店のバーゲン・コーナーを漁ったものです。とにかく安かったですし、掘り出し物も見つかるので貧乏学生の私には大変ありがたかったです。ゴドレイ&クレームの3枚目のアルバム「フリーズ・フレイム」もそこで見つけました。

 最初が3枚組超大作、二枚目が原点回帰の作品、それに続く本作品はみそぎをすまして本領発揮となりました。大変地味に聴こえる作品ですけれども、それが彼らの本領でしょう。聴き込めば聴き込むほどに味わいが深まる、そんな作品です。

 タイトルは映画やテレビの静止画面のことです。一方でフレイムには肉体の意味もあります。ヒプノシスが手掛けたジャケットはそちらの意味をとって、凍った肉体がデザインされているようです。凍るとまだらになるんですかね、人体は。

 本作品の1曲目は「ニューヨークのイギリス人」です。スティングに冠詞のつかない同名曲があります。イギリス人はもともとエイリアンな日本人よりも、同類だと思い込んでいるアメリカ人に対した時の方が大きなカルチャー・ショックを受けるのだそうです。英国人あるあるです。

 その違和感を描いた曲は第一弾シングルとされてヨーロッパ大陸ではそこそこヒットしました。しかし、それよりもこの作品で初めてケヴィン・ゴドレイとロル・クレームの二人がビデオを作りました。本人たちも気づかなかった才能が開花したのでした。

 まるで映像監督としての知識など持ち合わせていなかった彼らですから、当初レーベルはプロの監督を用意しました。しかし、要求の多い二人に嫌気がさして監督は降りてしまいます。そこで勉強を重ねた二人で作り上げたのがこのMVです。かっこいい話です。

 それはさておき、アルバムはそこから気の利いた曲がずっと続きます。「アイ・ピティ・イナニメイト・オブジェクツ」はハーモナイザーと小さなキーボードを使って、ボーカルを変調させた奇妙な曲です。美しいギターのアルペジオをバックにしたひねくれポップです。

 この頃、彼らはアメリカでギター職人ダン・アームストロングと出会い、彼の作ったさまざまなエフェクターを試しまくっています。それに代表されるように本作品では、とにかく新しい試みが重ねられています。そのことがゴドレイ&クレームの真骨頂なんでしょう。

 アート・スクール時代の恩師ビル・クラークは、彼らに得意なことを尋ねると、それと違うことをやらせたのだそうです。自分でできるかどうかも分からないことをする、それが二人のモットーともなったということです。ここでもその方針に忠実な二人でした。

 ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラが加わった「ブラジリア」では三人がそれぞれ別々にスタジオ入りして、他の二人の成果を全く聴かずに演奏したものをコラージュしたそうです。コンピューターが普及していない当時としては極めて難易度が高い取組です。

 また、話題となったのはポール・マッカートニーの参加です。わずか1曲のコーラスだけですが、二人の求めに応じて風のように現れて去って行ったポールはとてもクールです。ポールは本作品の未来を先取りしたサウンドを高く評価していたのでしょう。

Freeze Frame / Godley & Crème (1979 Polydor)

*2011年12月4日の記事を書き直しました。



Songs:
01. An Englishman In New York ニューヨークのイギリス人
02. Random Brainwave
03. I Pity Inanimate Objects
04. Freeze Frame
05. Clues
06. Brazilia
07. Mugshots
08. Get Well Soon
(bonus)
09. Silent Running
10. Wide Boy
11. Submarine
12. Marciano

Personnel:
Kevin Godley : vocal, drums, percussion
Lol Crème : vocal, guitar, bass, percussion, gizmo, synthesizer, piano, harmonica
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Phil Manzanera : guitar
Paul McCartney : chorus
Rico Rodriguez : trumpet, tuba