あれも聴きたいこれも聴きたい-Bjork7
 ビョークは今回盛ってきました。ジャケットの髪型からして凄い盛り様です。前作「ヴォルタ」から4年、盛りに盛ったアルバムです。お腹にはハープでしょうか。実際、アルバムにはハープが多用されていますが、まさかこれが鳴っているのでしょうか。

 今回のテーマは「音が空間でどのように物理的に動くか、それが宇宙とどのように共通しているか」ということだそうです。曲のタイトルは「月」に始まって、「至点」「宇宙の起源」「暗黒物質」「雷電」と物理・天文学用語が使われています。明快なコンセプトがあるわけです。

 この作品の話題は何と言っても普通のCDに加えて、アプリでも発売されたことです。アップルと共同で生み出されていて、残念ながら体験していないのですが、聴き手が手を加えていけるようになっているそうで、曲が生きているように形を変えていくそうです。

 iPadなどタブレットで作られた曲もあるそうで、ピアノやギターを弾かないビョークは水を得た魚のように生き生きとしています。本人も「歌いながら同時に操作して曲を作ることが出来るから、よりエモーショナルで、自分のフィーリングに直結させられるのよ」と話しています。

 さらに楽器の多くはこのアルバムのために開発されたものです。ガムランとチェレスタを組み合わせたガムレスタとか、何やらかんやら。普通のギターやピアノはありません。シンセやコンピューターを使ってエミュレートするのではなく、オリジナルの楽器。

 ついでに、各楽曲も普通の4分の4拍子などではなく、8分の17拍子とかなんとか、もともとこの辺りの知識の乏しい私には、一体全体何なのか全く訳の分からない構成になってもいるそうです。曲の根元にまでビョークのイマジネーションが刺さっていくのですね。

 そんな説明を聞いていると、どんなに実験的な常軌を逸したアルバムだろうと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。音楽的には様々な実験が行われているのでしょうし、確かに聴いたことがない音も出てくるのですが、これまで以上に自然な印象を受けます。

 ビョークの語りかけるようなボーカルに、音数の少ない演奏が加わりますが、その響きも含めて、とても自然な感じを受けます。激しい電子ビートも時折混ざるのですが、ビョークの体に備わっている自然体のリズムであることはよく分かります。

 彼女の言うように「よりエモーショナルで、自分のフィーリングに直結」した音だと思います。変なたとえですが、ロバート・ジョンソンのブルースのようです。どんなに常識外れの機材を使っていても、ビョークの声と絡まって、肉体が現前してくるんです。

 ボートラで「ナチュラ」という曲が入っています。これにはトム・ヨークがゲスト参加しています。ちょっと毛色の変った曲です。加えて、アルバムには豚の一生を描いた作品を発表したマシュー・ハーバートも参加しています。

 どこからどう見ても聴いても素晴らしい。アルバムにアプリにライブ、ドキュメンタリー、ウェブサイトとマルチな展開を見せるプロジェクトですが、私にはアルバムだけでも十分すぎます。盛りに盛ったアルバムなのにとてもシンプルに回帰。凄味があります。

Edited on 2018/2/22

Biophilia / Björk (2011 One Little Indian)