あれも聴きたいこれも聴きたい-MJQ 音楽を聴いていると、時々、音が体の隅々に染み込んでくるような感覚を味わうことがあるものです。今朝のMJQがまさにそんな感じでした。日光浴をしていると陽の光が体全体に吸収されていくのが分かるのと同じ感覚です。幸せですよね。

 日本のジャズの受容にあたっては、フランス映画とジャズ喫茶が大きな役割を果たしたということです。中山康樹さんの説です。ジャズなど聴く気もなかった人々が、フランスのヌーヴェル・バーグ映画にモダン・ジャズが起用されたために耳を傾けることとなったのが大きいという話です。

 この「たそがれのヴェニス」は「大運河」といいう映画のための作品です。映画の原題は「セトン・ジャメ」決して知らない。英題が「ヴェニスに太陽はない」、邦題が「大運河」、英題の邦訳が「たそがれにヴェニス」とややこしい限りですが、皆同じ映画のことを指しています。

 モダン・ジャズ・カルテットはジャズ史上最も長く愛されたコンボとして知られています。奥さんがクラシックのピアニストだったというクラシックな、言いかえれば白人的な感覚のジョン・ルイスがリーダー格。相対するはファンキーな感覚にあふれるミルト・ジャクソンのヴィヴラフォンとなります。これにリズム隊、ベースのパーシー・ヒースとドラムスのコニー・ケイを加えた四人組です。

 この作品は映画のサントラではなくて、映画のために書き下ろした楽曲をアルバム用に録音したものになります。57年5月にニューヨークで初演して、大喝采をもって受け入れられました。同時にサティとドビュッシーの室内楽が演奏されたそうですから、通常のジャズとちょっと違いますね。

 全体に物語の登場人物にあわせた三つのテーマが設定され、そのテーマを軸に構成されていきます。その構成力たるや素晴らしく、クラシック的な感覚を味わうことができます。一方で、全体にクールなサウンドに秘められたジャクソンのファンキー魂が後ろからこつこつと突き上げているようで、何とも言えません。

 ソロ中心というよりも、全員が同時にソロをとっていて、それが紡ぎ合わさって曲ができている。そんな感じです。どの楽曲もよく練られていて素晴らしいですが、私は「行列」のわーっと盛り上がって行くところが大好きです。素人にもよく分かる静から動への移り変わり。

 今日は妙にこの録音にはまりました。素晴らしい作品です。

 ところで、ジャケットに使われているのはターナーの「ヴェネツィアの大運河」という絵画ですが、何と左右が逆。反転しています。痛恨のミス。

The Modern Jazz Quartet Plays No Sun In Venice (1957)